SF・ファンタジー
機械人形は夢を見るのだろうか
1,807文字
約4分で読了
人間は死ぬ前に夢を見ると言う――
幸福な夢。生前生きた記憶が映像として再生され美しい場所に行く夢。
だったら機械人形は夢を見るのだろうか……
彼が私のところにやってきたのは7歳の誕生日の時だった。
兄が欲しいと父と母に泣いてねだったのはその少し前だ。
彼は私の『兄』としてここにやってきた。
当時としてはそのような人型のドロイドはあまりに高級な品だったはずだが、プロトタイプとしてデータを開発元に送る条件で破格の値段で購入したらしいという事をずっと後になって知った。
両親とも仕事で忙しく家には私しかいなかった。
いや正確には私と彼だけだった。
当時の私の環境は小学校の就学とともに家で一人になってしまったのだ。
学童保育は満杯で入れそうになかったため、両親は私を一人で家に置いておくことをためらいこのドロイドの彼の購入を決めたらしい。
見た目は10歳ぐらいの彼だが家事能力と介助能力、ベビーシッターの機能も一応ついているらしかった。
事実その日から家に帰ってくれば彼が食事の準備をして掃除をして私のことを待っていてくれた。
まだまだ当時としては珍しかった家事手伝いドロイドとしての機能をしっかり兼ね備えていたのだ。
家に帰ってくれば彼が「おかえり」と言ってくれる。
私のわがままは何でも聞いてくれる。
悩みも不安も受け止めてくれたのは彼だった。
プレゼントされた当日、私は彼に愛という名前をつけた。
「男の子の人形なのに愛なの…」
母がそう言ったが私はその名前がとても気に入っている。
彼は私に必要な愛をくれた。
やがて私は彼よりも背が伸びグングンと成長していった。
成長期の子供なのだから当たり前なのだがいつのまにか彼の身長を追い抜かし私が彼を見下ろして彼が私を見上げるようになっていた。
とは言ってもやっぱり私にとって彼は『兄』だったのだが……
高校生になり大学生になった私は一人暮らしを始めることになった。
一人暮らしするアパートに私は彼を連れて行った。
正直に言うと一人で暮らすのが不安だったのと家事能力が残念ながらいまいちだったせいだ。
家に帰ってくれば彼が「おかえり」と言ってくれる。
それは私の気持ちをとても落ち着かせてくれた。
外見は小学生の男の子と大人。
正直に言うと何度か彼の外見を大人のものと交換しようかと考えたことがある。
だがそのためには車が1台分買えるだけの金額を用意しなければならないのとその子供の姿が私にとっては 一番馴染みがあるホッとするものだったのでやはり考えるだけで終わってしまった。
大学を出て就職をしてお付き合いする女性ができて、私は彼のことを話せないでいた。
私にとっては大事な『兄』なのだ。
必死の思いで、私は彼女に彼の話をした。
すると彼女は、
「別にいいよ。私も猫飼ってるし」
という一言が返ってきた。
正直、拍子抜けした。
猫とドロイドではずいぶん違うだろう。
だが、そんな性格の彼女だったから余計に引かれたのかもしれない。
やがて子供が生まれ今度はその子たちの『兄』に愛はなった。
私たちの家族と共に彼はずっといた。
彼は私たちの家族だった。
私と愛が出会ってから80年が過ぎた。
この頃、彼の動きが途中で止まってしまうことがよくある。
心配になって私はメーカーを訪ねた。
メーカーの話ではバッテリーが消耗していてあと10年ほどで停止してしまうらしい。
新しいバッテリーにと思ったが、すでに彼自身はとても古いプロトタイプであるため交換するためにはあちらこちら入れ替えなくてはならない。またバッテリーを入れ替え大幅に修復するためには初期化しなくてはならないらしい。
……つまりそれは私との思い出が消えてしまうということだ。
もちろんバックアップは取れるらしいがAIの仕様が変わってしまっているために性格に誤差が出てきてしまうらしい。
どの道そうなってしまうともう彼は彼ではなくなってしまう。
あと10年……
私の命が尽きるのが先か、彼が停止してしまうのが先か……
私は彼を家に連れて帰った。
妻は3年前に先立った。
子供たちはとっくに成人してそれぞれの家庭を持ち中には孫がいる子供もいる。壁にかけられた写真は私の時間だ。
いや正確には私と彼の時間だ。
夜も更けて布団に入る。
愛もまた同じように布団に入る。
バッテリーの消耗を抑えるために、夜は同じように寝ることにしたのだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
目をつぶる彼を見て夢を見るのだろうかと思った。
機械人形は夢を見るのだろうか……
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