ミステリー・サスペンス
懺悔
966文字
約2分で読了
告白というのはグロテスクであればあるほど良い。
一先ず電子タバコを吸っていいかと確認するサオリに、ミキはもちろんと快諾する。その告白の内容が私の期待を裏切らなければ、という枕詞はそっと飲み込んだ上で。
「元カレがさ、警察に行ったんだよね。今までの人はそこまでしなかったのに」
サオリがふぅぅっと吐き出す甘い香り。咽そうになるのを悟られないようミキは紅茶を飲み込み二の句を待つ。
「私、噛んじゃうんだよ。彼氏のこと」
きた。とミキは浮つきそうな口角を抑え、うん、とだけ相槌を置く。
「血が出るまでやっちゃうんだよ。ていうか、血が舐めたいの、本当は」
「興奮する?」
ミキの間髪の隙も無い切り返しにサオリの目は一瞬丸くなる。そして視線を断ちコクリと頷く。
「興奮も、だけど、なんていうか、安心するっていうか……」
無意識だろうか唇を指先で触れるサオリは、愛らしさと美しさを兼ねた羊のようだった。その中身はサキュバスなのだと自白の最中なのだけれども。
「噛まなくちゃ、ダメなの? 例えば針でつついても血って出るじゃない?」
「んー……」と天井を見上げサオリはまた水蒸気の透けた白煙を吐き出す。やはり、甘く、くさい。
「噛む行為は独占欲のせいって言うじゃん。その上で、というかその先で熱い血が口に入ってくると、なんていうか、たまらないんだよ」
紅茶の入ったマグカップを包む両手が僅かに痺れ、背筋を八足虫が這うような薄い質量ある快感が疾る。ミキの吐息は昂揚し、震える。
「私、捕まるのかな……」
膝を抱え小さくなるサオリの髪が小刻みに揺れている。
ねぇ、サオリ。自分さえ理解し得ない物を誰しもが持っている狂気のこの世界。例えば、もし、罰を受けることになったとしても、あなたが美しいという事実は変わらない。
「サオリ。私の今の彼氏のお兄さん、弁護士さんなんだよ。一度相談してみたらどうかな」
「ほんと? ありがとう。ミキ」
そんなやり取りをしてサオリは夜道に溶けながら帰って行った。
甘い残香が満ちた部屋。
ミキは透明な灰皿と小瓶を取り出す。
照明を受け乱反射するガラス製の灰皿に小瓶の中身をパラパラと落とし火を灯した。
ぬるりと上がる白い香気を鼻腔いっぱいに吸い含み、熱くなった吐息が震え、心臓の昂りを知らせる。
「私もいつか誰かに告白するのかなぁ」
パートナーの爪が燃える部屋でミキはひとり呟く。
\ 次の作品を探す /

読者の感想・応援メッセージ