ホラー・怪談
燃える空
958文字
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よく、「燃えるような夕焼け」という時がある。でも、あれは例えじゃなくて、本当に燃えてるんだと思う。
秋になると、空が高くなるという。空気が澄んで、夕暮れ時の赤色が一年で一番、不気味なほど鮮やかに見える季節だ。窓から見上げる今日の空も、まさに一面の茜色だった。うろこ雲の一つ一つが、内側から激しく発光しているように赤い。
僕はベランダに出て、冷たい金属の手すりに寄りかかった。耳を澄ますと、どこからか「パチパチ」という音が聞こえる。乾燥した落ち葉を踏む音ではない。もっと高い場所——空のずっと上の方から降ってくるような、何かが爆ぜる音だ。
――パチ、パチ……バチッ。
音が少し大きくなった。気のせいか、熱気のようなものまで肌にまとわりついてくる。十月の終わりの冷たい風が吹いているはずなのに、頬がじりじりと焦げ付くように熱い。そして、むせ返るような、妙な匂いが漂ってきた。
僕は目を細めて、赤く染まった雲の塊を凝視した。
「……嘘だろ」
そこにあったのは、ただの雲の影ではなかった。赤と黒のグラデーションの中で、人の形をした何かが、もがき苦しむように身をよじらせている。一本、また一本と、黒い腕のようなものが虚空に向かって伸びては、真っ赤に燃え上がって崩れ落ちていく。そのシルエットの一つの輪郭が、見慣れた斉藤の後ろ姿と不気味なほど一致していた。
斉藤は先週から学校を休んでいる。先生は「家庭の事情」と誤魔化したが、誰も斉藤と連絡が取れず、「神隠しではないか」と噂になっている。
――まさか。
空を見ながら固まっていると、空からパラパラと白い粉が落ちてきた。雪ではない。それは僕の手の甲に落ちて、黒い煤(すす)のような跡を残した。むせ返るような匂いの正体は、きっとこれだ。
夕焼けが美しいのは、空気中の塵や埃が太陽の光を乱反射するからだと、理科の授業で習った。でも、もしその塵が、空で焼かれている「誰か」の灰だとしたら……。
日が沈みかけ、空の赤みが急速に失われていく。もうすぐ、夜が来る。誰かの断末魔を残して。
明日の秋晴れも、きっと美しい夕焼けを見せるだろう。その時、空の向こうで燃え上がるのは、一体誰なのだろうか。
ひらひらと舞い落ちてきた白い灰を払い落としながら、僕はあの美しい空の「燃料」に選ばれないようにと、心の中で祈っていた。
(了)
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