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「作者の気持ちを答えよ」

1,016文字 約3分で読了
昔、あなたが教えてくれた。 最初の抽象絵画ができた理由を。 何が描いてあるか、分からない。 でも目が離せない。 そんな作品を見た画家が描いた絵がはじまりなんだって、あなたは教えてくれた。 自分の感じたことが、もし作者の意図と違っても別の意味が生まれることもある。 不正解にも意味はある。 とあなたは自分の考えを続けて語った。 私はその時、あなたみたいだと思った。 私はあなたを見つめる。 キラキラした目で、美術館の絵を見つめるあなたの横顔を。 ―― 高校を卒業して、お互いの道に進む。 私は教師を目指し教育学部へ、あなたはずっと夢だった美大に。 学生同士の恋人関係なんて、いつか綻ぶ。 どこか諦めに似た一般論で、大好きなあなたと疎遠になっていく事実から心を守った。 久しぶりに会ったあなたは、絵にのめりこんでいた。 クマすら隠さない、髪はボサボサ。 手先はボロボロ。 「忙しいの?」 「うん。」 「前も言ったけど、あなた体弱いんじゃん。」 「……そうだね。」 「やめろなんて言わないけどさ、例えば画力を活かせる他の道とか……」 「……。」 「……ごめん。ねえ、前に言ったお店行かない? あなたの好きなパンケーキが有名だか――」 「ごめん、忙しいから。」 ガタッと立ち上がりあなたはお金を置いて、そそくさとカフェを出る。 スマホから謝罪のメッセージを送る。 私は理解しようとした。理解できないまま、それでも見ずにはいられなかったあなたを。 大学を卒業し、私は晴れて教師の道に進む。 ほどなくあなたの訃報を聞いた。 お葬式には、もちろん行った。 何度か会ったことのあるあなたのお父さんは涙の止まらないまま、死因を説明してくれた。 ……でもどこか現実味がなくて、その言葉はグシャグシャになった紙のように形を失って、私には届かなかった。 日常に戻る。 不器用な人、スポットライトが当たらない人は世の中にたくさんいる。 そんなことは重々承知だ。 私にとって、それがたまたま最愛の人であっただけ。 ――雫が一滴、書類の上に落ちてしまった。 いけない……、もう思い出すな。 もう思い出すな! 周囲の先生方にばれないように、迷惑にならないよう、涙を拭い心を強く律する。 あなたの言葉を思い出しながら、PCで今期のテスト問題を作成する。 「作者の気持ちを答えよ。」 正解は作らなきゃ。大事でしょ……。 正解から外れたら、バツをつけなきゃいけない。 でも理解できなくても、あなたは鮮やかだった。 不正解でも、あなたとの鮮やかな思い出は消えてくれない。
2026/09/30 ・ 👁️ 82回 ・ 💬 1件

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ごみがき
"あなた"と私、どちらにもシンパシーを覚えて、なんだか理解者が増えたような、そんな気持ちになりました!
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