コメディ・日常
撫子色の裏切り
557文字
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秋風に彼岸花が揺れるシーズンがやってきた。
駅前の花屋による。母が好きだった撫子の花を買う。
本来ならばこの花は春から初夏にかけてに咲く。
だが 園芸店では温室で栽培された花が並ぶ。本来のシーズンとはかけ離された偽りのシーズンに花を咲かせるのだ。
私はその花を買ってそのまま母の墓参りに行く。
母のことだ、仏花はあまり好きじゃないだろう。
柔らかい撫子の花の色が母の笑顔を思い出させてくれる。
母は柔らかな桃色が好きだった。
まるでこの花のような。
駅から15分ほど歩いて墓地へと着いた。
お彼岸の墓参りであちらこちらに花がいけてある。
私は撫子の花を供えた。
母は私が大学進学の時に病気であることを黙っていた。
それは母の優しさだったんだろうが、結果として私は母が亡くなった時に会えなかった。
大学を出て就職して社会人一年目のことだ。
とても信じられなくて裏切られたような気持ちになったのを覚えている。
悲しみというのは急には押し寄せてこない。
混乱と不安と信じたくないという気持ちがごちゃ混ぜになって 実家へと帰った。
葬式が終わって、それでもまだ信じられなくて。
母がいないのだと実感したのはずっと後になってからだ。
お母さん……
もっといっぱい話したいことがあったのに。
風に揺れる撫子の花を見ながら顔見上げると、
母が好きだった撫子色に空は染まっていた。
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