SF・ファンタジー

珈琲屋は毒を売る

1,197文字 約3分で読了
作者:珈琲時間
 目的のみを果たす人。  無闇に散財する人。  喋るだけの人。  休日の暇潰しの人。  目的を探す人。  老後の人。  仕事中の人。  あるいはショッピングモール。  あるいはデパート。  あるいは商店街。  だいたいはこういう人たちで、どこも構成されている。  繰り返す毎日はこういう人たちで、囲まれている。  チェーン店に食われかけた「ぎりぎりの商店街」からほんの一分。  知らなければ視界にも入らない。  俺の店はそんな路地にある。 「珈琲屋」  あからさまとも言える、分かりやすい屋号。  客は滅多に来ない。  たまに来たかと思えば、内装に金がかかってないだの、サービスが悪いだの、男ひとりでやってるのかだの、デザートが少ないだの。  老舗、あるいはチェーンのオシャレカフェと比較されるのなんてザラだ。  ━━その全てが商品になるわけだが。  そして今日は月一のあの業者の来る日。 「お世話になってますぅ。珈琲屋さんっ」  馬鹿に爛漫な笑顔。  美容師みたいに明るい髪色。  就活中かと言いたくなるスーツ。  そして、いつものキャリーケース。  小柄なこの子がよく持ち運ぶなと毎度感心する。 「どうですかぁ? 今月も貯まりましたぁ?」  どうも話し方が癪に障るが、この小娘こそがこの店の生命線なのだ。 「お客さんもいませんしぃ、やっちゃいましょうか。はいっ! これ被ってくださいっ」  キャリーが開かれ、小娘の頭二個分くらいのヘルメットが出てくる。  毎度このどっしりとするヘルメットを被る度、屈辱と、この後の期待との、なんとも言い難い感情になる。 「じゃあ失礼しまぁす」  ヘルメットの額の辺りに接続されるホース。  これ掃除機のホースと同じだろ、といつか聞いてやろうと思っている。  ━━きゅうううううううううううぃん  何しろ音まで掃除機のそれだ。  俺が貯めた毒が吸い出されていく。  すっきりするかって?  馬鹿言え。残るのは虚無だよ。 「んー。嫉妬に怠惰、傲慢に強欲っと。憤怒、暴食は少なめですね。色欲は今回も無しです」  彼女はホースの根元、キャリーに収まっている小箱型のメーターを見ながら報告してくる。 「もう少し捻り出せますぅ?」 「少ないのか?」 「暴食、色欲が在庫不足なんですよぉ」 「そんなこと言われてもな…」  彼女が身を乗り出し、顔を近づけてくる。 「し き よ く、今 で ま せ ん か ね ?」 「出たか?」  ぐいっと小さな肩を押し戻す。 「ダメでしたぁ…」  がっくりと細い肩を落とし、彼女は伝票を書く。 「じゃあ今日の買取金額ですっ」  ……。  助かった。  これで今月も食っていける。 「しかし、在庫切れになんてなるんだな」 「なりますよぉ。特に色欲、暴食はご年配のお客様に人気でっ」 「AIの弊害なんてどこから出るか分からんね」 「まぁ私たちも商売ですからねっ!では、また来月、お邪魔いたしますっ」  スキップ気味に彼女は去っていく。  ━━ガラガラガラ 「いらっしゃいませ」 「え、やば」 「さすがに、映えないよこれ」 「いこいこっ」  ━━ガラガラ……ピシャ 「ありがとうございましたー」
2026/09/22 ・ 👁️ 79回 ・ 💬 0件

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