児童文学
揺らぐ水面の秘密
2,252文字
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新緑が池の表面に映り込みます。
穏やかな午後は風ひとつなく、まるで鏡のように水面に若葉が写ります。
ふと水面に波紋ができました。
まるで小さな小石でも放り込んだかのように、水面はゆらゆらと揺れています。
風がないのに水面に波紋ができているのを見たことがある人はいるでしょうか。
何かが落ちたわけでも、下から魚がつついたわけでもなくて、水面がゆらゆらと揺れているのです。
きっと注意深く見なければ気づく人はいないでしょう。
けれど気がついた人がいたのです。
その様子を見ていたのは春彦くん。
小学2年生の男の子です。
学校が終わってまっすぐ家に帰るのが嫌で、公園のベンチに座って池を眺めていたのでした。
春彦君はずっと池を眺めます。
池の表面で何かが光って見えました。
よく見るとそれは小さな女の子でした。
背中に小さな虹色の羽が生えているのです。
「妖精さんだ!」と春彦君は思いました。
水面に落ちて尻餅をついて、そして水に波紋ができたのでした。
女の子は池の水の上に座っています。
春彦君はどうして女の子が水の中に沈まないんだろうと思いました。だけどしばらく考えて、もしかしたら女の子はとっても軽いから沈まないで水の上に立つことができるのかもしれないと思いました。
「いたた、もう一回!」
女の子は羽を動かして飛び上がります。
空中で女の子は止まります。
一体何をしているんだろう?春彦君はとても不思議に思いました。
一分、二分、時間が過ぎてゆきます。
女の子はだんだんと赤い厳しい顔になってゆきます。
激しく動いていた、羽がだんだんと動きを止めていきます。
そしてまた水面に落ちてしまいました。
「はぁ、がんばったんだけどな……」
女の子はため息をついてそう言いました。
そしてもう一度 飛び上がろうとして、今度はつるんとこけてしまいました。
「大丈夫?」
春彦君は思わずそう言いました。
女の子は、びっくりして春彦君の方を見ました。
「君、私の姿が見えてるの?」
「うん」
「普通の人間には私たちの姿は見えないはずなのに」
「そうなの?」
「そうよ。すごく稀に見える人もいるらしいけれど」
「そうなんだ。君は妖精さんなの?」
「そうよ。私の姿が見える人間に初めて出会ったわ!」
「僕も、妖精さんに出会ったのは初めてだよ」
「あら、そうなのね!じゃあ私たちお互いに初めて同士ね」
妖精の女の子は弾む声でそう言いました。
「ところで妖精さんさっきから何をしてたの?」
「飛ぶ練習よ。お父さんとお母さんがもうちょっと上手にならないと遠くまで飛んで行っちゃダメだって言ってるからね」
妖精の女の子の答えに春彦君はちょっとびっくりしました。
だって妖精が飛ぶ練習をしているなんて。
妖精は練習なんてしなくても空を飛べるイメージだったからです。
「それで何回も飛び上がってたんだ。妖精さんも練習しなくっちゃ空を飛べるようにならないんだね」
春彦君はそう言いました。
「そうよ、練習しなくちゃだめなの。特に難しいのはホバリングって言ってね空中でずっと止まった状態でいるの。スイスイ飛んで行くより難しいんだから。とっても長い間止まっていかなきゃいけないし、空に浮くためにはすごいスピードで羽を動かさなきゃいけないし」
「そうだったんだね。君、頑張り屋さんなんだ、すごいね」
春彦君は目を輝かせてそう言いました。
「そう頑張り屋さんなのよ!」
女の子は胸を張ってそう言います。
「でもホバリングなかなか上達しなくって、もうちょっと上手になりたいな」
照れたような恥ずかしいような表情を浮かべて女の子はそう言います。ホバリングというのは空中に停止して浮いている飛び方のことを言います。
「僕もね、縄跳びで飛ぶのがすごく苦手なんだ。もうちょっと上手になりたいなって思ってるんだけど、ちっとも上手くならないの」
春彦君はそう言います。
「そうなんだ!それだったら私と一緒に練習しようよ」
妖精の女の子は嬉しそうにそう言いました。
「うん、じゃあ僕がんばる。一緒にがんばろうね」
この公園に来たのは本当は、体育で上手く縄跳びが飛べなくて落ち込んでいたから気分転換をしたかったのです。
「毎日一緒にがんばろうね。すごくうれしいな!」
妖精の女の子はそう言いました。
「うん」
春彦君は答えます。
次の日、春彦君は学校が終わるとすぐに公園に向かって走って行きました。
やっぱり公園では妖精の女の子が一生懸命、ホバリングの練習をしていました。
これは僕も頑張らなくちゃだめだ!
春彦君は学校から持って帰ってきた縄跳びの練習をしながら 妖精の女の子を応援します。
苦手だった縄跳びは、だんだんと上手になってきました。
そして妖精の女の子のホバリングもとても上手になりました。
二人が出会って一週間後の小学校の体育の時間、今日はテストがあるのです。縄跳びのテストでした。
春彦君は少しでもたくさん 縄跳びを飛べるように頑張りました。
そのそばで妖精の女の子が応援します。
「がんばって!がんばって春彦君!とっても上手だよ。その調子、その調子!」
十回、二十回、三十回、今までにないほどたくさん飛ぶことができたのです。
妖精の女の子も春彦君も笑顔でお互いに笑い合いました。
女の子もとてもホバリングが上手になってあちらこちら飛んでいけるようになったのです。
女の子が池の上を飛ぶとほんのかすかに水面が揺れるのです。
大きな水の波紋ではなく、小さくかすかに表面が波立ちます。
それは妖精が飛んでいる証拠。
もし、皆さんが風もないのに水面が揺れているのを見たらその上を妖精の女の子が飛んでいるのかもしれませんよ。
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