コメディ・日常
白の嫁入り
1,885文字
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「雨って言ってたけど晴れてんじゃん。そろそろ梅雨も終わ……?」
「どうしたのさ」
部屋着のまま外を見ていた兄の言葉が不思議な途切れ方をした。何やら、動揺しているようだ。
「はっ、白米……」
「今朝はパンだよ。白米は昼食べて」
「違うって! 白米! 白米の嫁入り!」
「まだ寝ぼけてんの?」
「だから早く寝ろっていつも言ってんのに」
訳のわからないことを叫ぶ兄を放置し、母と私は食事に戻った。
それでもまだ、兄は外を指差し叫び続ける。
「ほら見ろってこっち! 白米の嫁入り行列だろこれ!」
窓際へ近付き、兄と場所を交代する。外には確かに、白米が列を成していた。
和服に見を包んだ白米達は白い手足を生やし、アスファルトを踏みしめて進んでいる。
中には湯気の上がる桶を持っている白米もいる。あの中に炊きたてのご飯が入っているのかもしれない。
「マジだった……てか白無垢なんだね。やっぱ日本米だから?」
「かもね。黒留袖着てるのもいるし」
「冷静過ぎない? 冷めてんの? 現実に」
「ほらよく見なって。あんたが食べたがってた白米もあるよ」
「炊飯機で炊いたやつがいい」
静々と動き続ける白米達は、よく見れば両端の列でそれぞれ違う旗を掲げている。
どちらの旗にも、何か書いてあるようだ。
「あの旗なんか書いてない? えーっと『夢ぴかり』と『二目惚れ』だって」
「それってどっちも米の品種じゃなかった?」
記憶を探って唸る私と兄を順番に見て、それから再び白米の行列を見遣る母。
真剣な顔をして、口を開いた。
「品種改良の儀、ってこと?」
「えっ、それって俺達が目撃しちゃっててもいいやつなのっ?」
「いいんじゃない? 農家の人見当たらないけど」
そうなのだ。白無垢や紋付袴など神前式スタイルで固めた白米の軍勢はいるのに、道のどこを見ても農家らしき人の姿がない。
人間は、私達のような見物人しかいないようだ。
「品種改良って農家の人抜きでやっていいのかなぁ?」
「そもそも白米同士が意思持ってやることじゃなくない」
「そうなんだけど」
他のギャリーもこれは品種改良の催しだと思っているらしい。
「まぁ何でもいいか。ほら、ご飯食べちゃって」
「はーい」
「米食べたくなってきた」
面白がって見ていたものでも、変化がなければ飽きるというもの。
母達に続き私も窓から離れようとした時、状況に変化が訪れた。
「あ、見て! 見てあれ!」
「なんだよ今度はー。俺腹減ってんだけど?」
「いいから見てってほら! お母さんも!」
「何……?」
白米行列達の進行方向から現れた、新たな影。それは別の白米の群れだった。
「こっちドレス着てるよ。教会式だ!」
「テレビでしか見たことないやつみれるかも」
新たな白米の群れは、純白のウエディングドレスを纏った白米を先頭に、モーニングやドレスを着た白米達で構成されている。
ウエディングドレス白米は、ベールを風にはためかせながら、両手で裾を摘んで一心不乱に走っている。
「今度は『秋男とこまち』だって! 花婿攫いに来たのかな?」
「花婿攫われるパターンをあんまり見たことないね」
あっという間に白無垢と紋付袴の白米の前に立ったウエディングドレス白米は、そのままの勢いを殺すことなく、紋付袴の白米を殴り飛ばした。
「入った右ストレート」
次いで、行列の中へと吹き飛んだ紋付袴の白米の上に、ウエディングドレス白米が何かを振りかける。
「何かけたんだろあれ」
「塩じゃない?」
「白米には塩でしょ」
「俺はお前らが怖い」
塩を振り終えたウエディングドレス白米は、白無垢白米と仲良く手を繋ぎ紋付袴の白米を食べ始めた。
紋付袴の白米の親族らしき白米達は、散り散りになって逃げ出している。
「これが食物連鎖かぁ」
「品種改良じゃなくて?」
「もう……何でもいいよ……」
捕食されていた紋付袴の白米が完全に消え去ると、落ちていた紋付袴側の旗の文言が変化していた。
「『こまち惚れ』か……美味しそうな新品種ができたねー」
「早く食べてみたいな『こまち惚れ』」
「あんなに怖がってたのに?」
「米そのものに罪はない」
白無垢勢とウエディングドレス勢が、元々の白無垢勢の行進方向へと動き出した時、突然発生した霧が、窓から見える全ての景色を包み込んだ。
そして、霧が晴れる頃には何いなくなっていた。
「あ、朝ごはんまだ食べてないわ」
「私もまだ残ってたわ」
兄と揃って食卓へと戻った時、テレビから朝のニュースが聞こえてきた。
「〇〇県が本日、米の新品種『こまち惚れ』を発表しました」
私は黙って兄を見た。
兄は私からまず目を逸らし、テレビに向けた目を逸らし、最後にようやく手元のパンへと視線を固定した。
「食べられるみたいだよ」
「…………買ってみるか」
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