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終電の恩恵
858文字
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「じゃあ、家についたら連絡するね」
「うん、お疲れ様」
駅の改札をくぐり、急いでホームまでの階段をのぼる。
駅構内特有の生暖かい空気が頬と、かじかんだ指先を包む。
1歩、2歩、3歩と小刻みに段差をのぼるたびジャック・オッフェンバックが作曲した『天国と地獄』脳をかすめる。
今日は残業が長かった。
新しいプロジェクトのプロジェクトマネージャーになり数週間。
プロジェクトマネージャー自体は慣れている。
ただ、毎回新しいプロジェクトが立ち上がるたびに、感覚を掴むのが大変だ。
計画書の作成やスケジュールの設定。
そろそろ、実行フェーズに入れる。
この段階で残業とは、私が仕事ができないのだろうか…。
…いいや、考えるのはやめよう。
駅のホームが見えてきた。
シルバーの車体に赤色の帯が装飾されている。
見慣れた電車だ。
すでに、人は乗り始めている。
私は急いで、乗り込もうと走る。
頭の中ではヴァンゲリス『炎のランナー テーマ曲』が流れる。
間に合う、間に合う。
その瞬間、電車のドアが閉まった。
あ…、やばい、閉まる。
シャルル・グノーの『操り人形の葬送行進曲』が流れてきた。
私は会社の操り人形だ。
こんな時間まで、残業をし、挙句の果てには終電を逃した。
携帯のメッセージ音が鳴る。
「電車乗れた?」
あの子からの一言。
冷たくなって関節が動かない指で画面を操作した。
「乗れなかった」
「じゃあ、うち来る?ここ最近一緒にいれなかったし」
シュトラウスII『喜歌劇《こうもり》序曲』が流れる。
私はホームのベンチに座り、真顔で画面を操作する。
「いいの?」
「もちろん、じゃあ、駅の外で待ってるよ。明日はお休みだし二人でゆっくりしようよ」
「わかった。待ってて」
私は急いで、駅のホームをあとにする。
2段、4段、6段と大股に階段をくだる。
さっきまで冷たかった指先が、生暖かい空気のおかげか、熱をおび、頬は少し緩む。
久しぶりのお泊り、何をしようかな。
私は緩んだ頬を隠せないまま、あの子の元へ行く。
遠くからあの子の姿が見える。
エルガー『創作主題による変奏曲《エニグマ》』が大きな音で頭に流れる。
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