恋愛

散る花びらと電車

759文字 約2分で読了
作者:ReiN.
思ったより体が動く。ハンドルを握る指も、震えていない。 「送ってくれなくてよかったのに」 「さすがに送らせてよ」  いつも以上にハンドルがべたつく。  いつも通っている道。  いつも通り、なかなか青にならない信号。 「あ、唯。赤になったよ」 「うん」  私はアクセルを踏む。  いつもだったら助手席に座るあなた。  今日は荷物があるから後部座席に座っている。  あと10分で駅に着く。  アクセルの踏みが甘くなる。  私は拒否をしなかった。  理由も、はっきりとはわからない。  引き留めもしなかった。  あなたは話すとき、淡々としていた。  だから、私も淡々と返事をした。  その数日後、役所に行き、手続きを済ませた。  それぞれ、家に帰った。 「はい、駅に着いたよ」 「ありがとう」  近くの駐車場に止め、私はあなたと一緒に駅に入る。 「荷物持つよ、重いでしょ」 「大丈夫だよ。気持ちだけ受け取るね」 「うん」  駅のホームに着く。  この季節特有の花粉が、目と鼻を刺激する。  天気予報は当たっていた。  こういうときに限って、薬を飲んでいない。  花粉症の私に比べて、あなたは平然としている。  光沢のあるシルバーのキャリーケース。  あなたによく似合う。 「あとどれくらいで電車がくる?」 「えーと、8分後だよ」  私はあなたと、最後の雑談をする。 「今日の夕飯は何食べるの?」 「うーん、決まってない。多分サラダかな」  あなたは野菜が好きで、  いろいろなドレッシングを揃えていた。  わさびドレッシングだけは、どうしても無理だった。 「今日もわさびドレッシング?」 「ううん、ヨーグルトドレッシング」 「そっか」  電車が来る。  風が起きて、鼻の奥がむず痒くなる。 「じゃあね」 「うん、バイバイ」  またね、は言わない。  視線を前に向けると、桜の花びらが舞っている。  少しだけ、目が痒い。  電車のドアが、あっけなく閉まる。  あなたはもういない。  私は目薬をさした。
2026/09/19 ・ 👁️ 81回 ・ 💬 0件

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