SF・ファンタジー
大学生知能改変手術事件
1,350文字
約3分で読了
夕方、駅を出ると空はまだ少し明るかった。昼間の熱が残っているせいか、風はあるのに涼しくはない。
改札から吐き出された人たちがそれぞれの方向へ散っていく中を歩きながら、私は無意識に肩を回した。首の奥が重い。朝から画面を見続けていたせいか、目の焦点も少しぼやけている気がした。
今日は長かった。
人と話して、資料を作って、見知らぬ大人たちと面談して、そして時間が経った。
駅前を抜け、住宅街へ入る。見慣れた道を歩いていると、少しだけ気持ちがほどけた。遠くで犬が吠えている。どこかの家の窓からテレビの音が漏れていた。
部屋へ戻ると、まず窓を開けた。
新鮮な空気が入る。滞っていた空気が動く。
鞄を机の横へ置き、椅子へ腰を下ろす。
髪は邪魔だから、後ろで一つにまとめる。
部屋は静かだが、外では、車が走る音する。
クレンジングで化粧を落とす前に、
私はスマホを取り出した。
特に理由はない。
ただの習慣だ。
画面を開く。
通知がいくつか並んでいた。
まずは、彼女にメッセージを送る。
>今、帰ったよ。
既読がつかない。
忙しいのだろう。
時間をつぶすために、ネットニュースを見る。
その中のひとつに目がとまった。
『大学生知能改変手術事件』
見出しだけなら開かなかったかもしれない。
けれど、その下に表示されていた顔写真で指が止まった。
私だった。
画面を見つめる。
鏡を引っ張りだし、顔を確認する。
やはり私だった。
いつの頃の写真かはわからない。
記事を開くと、写真はそのまま表示された。
名前も年齢も一致している。
記事の内容は、大学生を対象とした違法な知能改変手術。
大学生に同意なく手術をしていた。
警察は、複数の関係者を捜査中とのこと。
容疑者の一人として私の名前が掲載されている。
とりあえず、情報を集めようと、
私はスクロールする。
記事は続いていた。
捜査資料や関係者証言、押収された記録。
その中に、チャットログの画像があった。
私はタップして、画面を拡大する。
送信者名は私だった。
アイコンも私だった。
メッセージが並んでいるが、記憶にもない。
私は自分のスマホを確認する。
そんなやり取りは、どこにもなかった。
記事を読み直す。
内容は異様に長かった。
読み進めるたび、何度も、自分の名前が出てくる。
やがて記事は終盤に入った。
発覚経緯。
私はそこで指を止める。
『事件は関係者家族による車両突入をきっかけに発覚した』
添付写真が表示されていた。
ビルのエントランスだった。
割れたガラスに傾いた看板。潰れた自動ドア。
そして、横転した黒い車体。
事故現場の写真としては珍しくない。
よく見るために拡大をする。
リアガラスステッカーに見覚えがある。
よくあるステッカーだが、先週、一緒に選んだピンクのステッカーに似ている。
運転者氏名。
彼女の名前だった。
一度、記事を閉じる。
もう一度開く。
やはり変わらない。
そして、彼女とのやり取りに既読はつかない。
私はスマホを持ったまま、天井についているシーリングライトを見る。
部屋は静かだった。
机の上へ視線を落とす。
透明なケースが置かれていた。
見慣れた学生証だった。
その瞬間、スマホが震える。
通知が表示される。
『レポート提出期限まで残り12時間』
提出時刻は午前九時。
私はしばらくその画面を見ていた。
それから学生証を見る。
『大学生知能改変手術事件』
私はまだ大学生だった。
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