コメディ・日常
平穏が見える家
712文字
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急勾配な坂の上に立つ私の実家は、怠惰でいつも余裕のない父と腰の悪い祖母が住んでいる。
私が数年ぶりに都会のジャングルから古びた二階建ての大きな屋敷へと帰れば、それはそれは酷い有様であった。祖母は自分が住むスペースをとても念入りに綺麗な状態にしているけれど、問題は父が使っているスペースである。
父は中型の犬を数匹室内へ放し飼いにして飼っており、居間は獣の臭いが充満し、居間の家具も服も犬の毛まみれ。おまけに獣臭さは居間から続く風呂場やトイレまで届いており、ひとたび洗面所のタオルで手を拭けば、私の手は犬の毛でモジャモジャになった。
唯一マシなのは、私が一人で使っていた二階の角部屋だろうか。とはいえ、私も怠惰な父に似て物の扱いが雑なので、随分前から漫画本や雑誌が床に置きっぱなしで足の踏み場がなかった。父を痛烈に批判できないのは、私もまた怠惰だからである。
それでもしばらく滞在するのだからと軽い掃除を行い、換気の為にしばらく開いていないであろう錆びれた窓を開けようとして、手前にある締め切られた重いカーテンを開けた。
そこで私は、窓の外に広がる景色に息を呑む。坂の上から、快晴の中で穏やかな顔をする山々と、そこに埋もれる田舎街がまんべんなく一望できたのだ。
酷い有様の実家に落胆する私にとって、その美しい景色は救いだった。こんなに得も言われぬ景色が見られるなんて。掃除の疲労なんて何処へやら。鬱屈した精神なんて何処へやら。胸がスッとする感覚と共に、確かに私の心は喜びで震えた。
相変わらず居間は獣臭い。手はモジャモジャになる。枕が低すぎて眠りは浅い。
けれど、平穏と平和の象徴みたいなこの景色を見る為に、またこの家に帰って来たいと思った。
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