SF・ファンタジー

湖の人魚と私

577文字 約2分で読了
作者:蓬田灯子
「はじめまして…」 握手から始まる、不思議な物語。 「あなたの名前は?」 「あなたの好きなものは?」 「年齢は?」 訪ねても、言葉が通じない。 私が笑うと、あなたも笑う。 私が困ると、あなたも困り顔になる。 まるで、鏡。 私は人間。 あなたは……人魚…? 水掻きのついた手。 顔や腕には、キラキラ光る鱗肌。 瞳は、この湖と同じ綺麗な青緑色。 私は、陸で。 あなたは、水の中から顔を出して、一緒に話す。 話す…と言っても、言葉はわからない。 しかし、身振り手振りと表情で、何とか通じ合う。 この人魚さんといると、自分らしくいられる。とても居心地がいい。 ずっと、こんなふうに話していたい。 人魚さんと……ずっと、一緒にいたい。 私も、一緒に、水の中で生きられたらいいのに……。 想いが頬を伝う雫となり、水にしたたり落ちる。 人魚はそれを見て、同じく雫をこぼした。 「……あっ、ご、ごめんね 泣かないで…」 放った言葉と同時に、人魚の両腕が伸びてきて、冷たい手のひらが、頬を覆った。 ………泣かないで そう言われた気がした。 この人魚さんと、言葉を交わしたい。 知りたい、あなたのこと。 私は、頬を覆っている人魚さんの手の甲に、自分の手のひらを添えて心を込めて言った。 「……私、あなたとお話しがしたい。 あなたの言葉を、教えて?」 人魚は、少しの間きょとんとした面持ちをすると、理解したかのように、花のように微笑んだ。 (終)
2026/09/20 ・ 👁️ 91回 ・ 💬 0件

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