SF・ファンタジー
『保護活動記録』
1,613文字
約4分で読了
スケッチとの出会いは、雪山での環境調査の仕事を終えて、帰路につく時のことだった。
スケッチを見かけた私は驚いた。
どこにでもいるような、ありふれた動物だが、そこは野生動物が殆ど生息していないような過酷な環境だ。当然、本来の生息地とはかけ離れている。
気が付かれないように、そっと様子をうかがってみたが、かなり疲労しているようにも見えた。つがいや群れで行動することが多いはずだが、周りにその姿はない。
何故こんな所に?という疑問はあったが、放ってはおけなくなり、保護をして我が家に連れ帰ることにした。
ペットを飼うのは初めての経験で、悪戦苦闘の毎日だった。
スケッチは警戒心の強い動物で、最初は檻の隅で怯えるばかりで、エサを与えても食べようとしなかった。私が同じものを口にしてみせるなどすると、次第に信用してくれたのか、なんとか食事をしてくれるようになった。
なんとかコミュニケーションをとろうとして話しかけたりもした。
勿論、言葉が通じるはずもないのだが、スケッチはある程度知能の高い動物で、話しかけられていることは理解しているように思えた。
この時の鳴き声が「スケッチ、スケッチ」と聞こえたので、それを名前にしたのだ。流石に安直だっただろうか?
スケッチは排泄のサインを見せながらも、こちらが観察していると、限界まで排泄を我慢しようとする習性があった。私だってマジマジと観察されていたら、出るものも出なくなるだろう。
真面目な分析をするなら、排泄中に無防備になるのを恐れ、外敵を警戒しているための行動だろう。
偶然トイレシートの上で我慢しきれずに排泄したタイミングを見計らい、何度か大袈裟に褒めてあげたら、そこが「トイレ」であることを理解してくれたようだった。
しかし、この後も、私の視線がある時は排泄してくれなかった。野生の警戒心を解くのは容易ではない。
スケッチは部屋でじっとしているよりも、外に出るのが好きなようだった。ただ、最初に外に連れ出す時は、とても苦労した。
まず、首輪を付けることを非常に嫌がった。首輪を装着すると、前足を器用に扱い、なんとか外そうと試みる。私の手で楽に取り外しが出来るものでは、スケッチも外してしまうのだ。
簡単な道具を扱う知能があるとは聞いていたが、ここまで器用であるとは思っていなかった。
また、リードに引かれることに強い抵抗を示した。自分のペースで動き回るのは好きなのだが、リードで行動を制限されると、たちまち不機嫌になるようだった。
徐々にではあるが、スケッチは私との生活に慣れていった。少なくとも、私が危害を加える存在ではないことは理解してくれたようだ。
今思えば、この頃には、あの「スケッチ」という特徴的な鳴き声をあまり聞かなくなっていたようにも思える。
スケッチとの生活は楽しかったが、それは永遠に続くものではなかった。環境調査であちこち飛び回るのが私の仕事だ。長期間、家を離れることもある。
1年ほど経った時、相性の良さそうな里親も見つかり、スケッチの訓練も充分であると判断して、引き渡しの手続きを開始した。
スケッチとの別れは辛かったが、スケッチの幸せのためなら、それを優先すべきだろう。
スケッチを新しい飼い主の家に初めて連れて行った時のこと。久しぶりに例の鳴き声を聞いた。それは新しい飼い主に何かを訴えかけるようにもみえた。
「あら、これは、なんと言っているのかしら? …すけ…って? た…すけっ…? あぁ、この子の名前なのね。確かにスケッチと言っているように聞こえるわ。自己紹介が出来るなんて、とても賢いのね」
◇
……次のトピックはコチラです。
探険家のA氏が雪山で行方不明になってから1年。忽然と姿を消した彼の身に、いったい何が起きたのか?当時、麓の山小屋にいた老人から話を聞く。
「あの日、山頂付近から巨大なUFOが飛び立つのをワシは確かに見たんじゃ。きっとA氏は宇宙人にでも攫われたんじゃよ。誰も信じてくれんかったがな」
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