その他
世界が終わる夢の底で
1,358文字
約3分で読了
故障したエレベーター / 二人きり / 本音
第一夜
こんな夢を見た。
蛍光灯が、ジジッ……という音を立てて切れた。
ガクンと響くエレベーターの中で君と二人きり。
君に話さなくてはいけない言葉があるはずなのにうまく声が出ない。私は暗闇の中で君を探して手を伸ばした。
途端にグニャリとした触感。
闇の中で君は事切れていた。
あぁ、どうして君にもっと早く大切なことを伝えなかったのか……
第二夜
こんな夢を見た。
君に別れを告げてエレベーターに乗った。
小さな箱型の乗り物の中で世界は遮断されてしまった。
降りれば君のない世界が待っている。
……どうして降りることができよう。
私はただエレベーターの中に立ち尽くしていた。
第三夜
こんな夢を見た。
どうやら世界が終わったらしい。
天国へ向かうエレベーターの前で、私は君の姿を待つ。
何万人、何百人、何千万人の人たちが列をなしエレベーターに乗り込んで行く。私はそれを見ながら乗ることができなかった。まだ君の姿を見ていない。
君はまだこの世界のどこかに生きているのだろうか、それとも先にエレベーターに乗って行ってしまったのだろうか。
第四夜
こんな夢を見た。
エレベーターに乗れば君に会いに行けるはずなんだ。
それだというのに私は躊躇していた。
乗った向こうは、同じ世界が広がっているのだろうか……
それとも別の世界になっているのだろうか。
今もまだ扉の前に立ち尽くしている。
第五夜
こんな夢を見た。
エレベーターの中には大概、鏡がある。
今、私が乗っているエレベーターの中にも。
鏡というのは真実を写す力があって、後ろに立っている君の姿が映っている。それは私の知る姿ではなく、異形の姿をしていた。
君が異形になってしまったのか、異形にとって代わられたのか、あるいは初めから君は異形の存在だったのか。
わからぬまま、私は振り向けないでいた。
第六夜
こんな夢を見た。
私と君は二人エレベーターの中に取り残されてしまった。
どうやら世界は終わってしまったらしい。
スマホのニュースが異常を伝え、そのニュースすら止まってしまった。
この世界に二人きり。
外に出て行けば死んでしまうかもしれない。
もっともこのエレベーターの中にいても、いずれ 二人とも死んでしまうだろう。
……構うものか、君と一緒なら。
第七夜
こんな夢を見た。
二人でエレベーターに乗った。
一体これからどこに行くんだろう?
エレベーターの中にはボタンがなかった。
箱は静かに動き出し、私たちをどこかへ運んで行く。
一体どこに行くんだろう?
私も君も行き先を知らない。
第八夜
こんな夢を見た。
君と同じ階で降りるはずだったのに、私は他の人たちに押されて違う階で降りてしまった。慌ててボタンを押すが、乗り込んでも君と同じ階に着くことができない。
私はただ一人エレベーターの中に残されていた。
第九夜
こんな夢を見た。
私は君に会いに行く。
エレベーターに乗り込んで、君に必ず会えるはずだと……
ご覧あれは白鳥のステーションだ、もう少し先に進んでやがて サウザンクロスに着くだろう。
君はそこにいるのだろうか……
第十夜
私は一人エレベーターから降りた。
鍵を開け家の中に入り、やがてベッドに着く。
今日も『君』の夢を見るだろう。
存在しない『君』の夢を……
(※お読みくださった方はお気づきだと思いますが、敬愛する夏目漱石先生の夢十夜のオマージュです。)
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