ミステリー・サスペンス

横取り

1,348文字 約3分で読了
作者:珈琲時間
 沸騰するやかんの湯気が虹色に見えた。  私のため一生懸命にファンファーレを奏でてくれる、かわいいやかん。  友人Aと友人Bは同じ彼氏を持っていた。  持っていたことが昨日発覚した。  残念な分野で器用な男リュウジは、私の同僚で、私に見透かされ、今日私たち三人から断罪を受ける。  性欲の暴走というのは、いかなる背景も酌量されず、責任の全てが個人の歪んだ本能へと帰結する。  この場合は勿論、リュウジだ。  愚かな人。  幸福とはどれだけの人が祝福するかの多数決に依存するのに。  客観性を欠いた幸福は、自分は幸せだという呪文を言い聞かせる惨めさも同時に受け入れなければならないのに。  ほら見て。  早く来て。  AもBも「あんなヤツ捨てて絶対幸せになろうね!」って宣言し合ってるよ。  これが承認なんだよ。これが積み重なって人は祝福されるんだよ。祝福されてこそ幸せなの。逆はないの。それは幸せ未満なの。 「カナも変な男に引っかかっちゃダメだよ! 絶対相談してね!」  ありがとう。  あなた達が共有する幸せが欲しくなったその時は、きっと私もそうする。 「うん、約束する」  リュウジはつつがなく裁かれた。  私は社内にこのことは漏らさないと誓ってあげた。  それでも。  日中のファミレスで、ほら皆さんここにクズがいますよとアナウンスされるように、AもBも正々堂々と快活にヒステリックを起こした。  会計票をそのままに私たちは店を出る。 「あーすっかりした、ね、今からアプリで男探そうよ、えーいいね、三人で多数決しながらどれがいいか決めよ、まじ、うけるねそれ、もうゲームじゃん、うちら酷い目に遭ったんだからちょっとは憂さ晴らししないと、それな、いこう、カナもおいで、私たちが選んであげるから、カナも選んで、そうそうリュウジの浮気見抜いたのもカナなんだし、カナの助言まじ必要、だよねー」  二人ともありがとう。  二人ともお疲れ様。  あなた達とリュウジを引き合わせたのは私の開いた合コンだったのにね。  その夜、私はリュウジにLINEを飛ばす。  ━━『今日は来てくれてありがとう。お疲れ様』  未読。  ━━『浮気の件は本当に漏らさないから』  未読。  ━━『ていうか、二人にバラしたの私なんだよね』  未読。  ━━『それとリュウジくんさ、横領してるよね。ごめんね。証拠の動画もあるんだ』  未読。  既読。  ━━『だからそっちは別の問題だよ』  既読。  ━━『カナちゃん、オレなんかした?』  と返信。  ━━『カナちゃんに迷惑かけてないと思うんだけど』  と返信。  ━━『私の友達傷付けた』  既読。  ━━『問題を混同しないで』  既読。  ━━『オレにどうしてほしいの?』  と返信。  ━━『黙ってて欲しいのだったらそんなに選択肢ないと思うな』  既読。  沈黙。  ━━『100万で動画消してくれる?』  と返信。  ━━『わかった。手渡しで。なるべく早くね。私も動画持ったままだと気持ち悪いから。目の前で消すから安心して』  既読。  終了。  ありがとう、リュウジ。  その時一緒にこのLINEも消そうね。  不都合でしょ?  私の幸せはあなた達とは違うの。  だから幸せとは呼ばないかもしれないね。  快楽、が一番近いかな。  生物的でしょ?  幸せなんて文化人という仮面同士の茶番劇に過ぎないと思うの。  だからお金を貰ってLINEを消したら、私の横領も被ってもらうね。  動画だけが証拠だと思ってるの?  かわいいリュウジ。
2026/10/25 ・ 👁️ 15回 ・ 💬 0件

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