コメディ・日常
父のレコード
718文字
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亡くなった父の遺品を整理する。
たくさんの本、いくつもの美しいジャケットのレコード盤、しゃれたレコードプレーヤー。ちょっと今では手に入らない品だ。
いや、この形は蓄音機といった方がふさわしいのかもしれない。
錆びついたラッパのような形の部分は何というのだろうか。
もっとも、レコードプレーヤーと蓄音機の違いなど私には分からないのだが。
衣服や使い古した日用品なんかは処分することはできても、そこにあった品々に父の心が宿っているようで私は処分するのをためらった。
それでも愛好家の方にお譲りできればとフリマアプリで手放したものもあるがどうしてもやはり手放せないものはあった。
このレコードプレーヤーはまだ使えるだろうか。
一応 専門店に電話して 壊れてないかを見てもらう、やはり修理が必要な部分はあって久しぶりに家に帰ってきたレコードプレーヤーを見て父が帰ってきたような気分になった。
父の本棚から1枚のレコードを取り出しそっとレコードプレーヤーの上に置く。
私はそっと針を落とした。
ノイズの入ったメロディーはまるで川の流れの音に似ている。
このノイズの寂れた音が私は好きだった。
子供の頃、父の書斎からよく流れてきた音だ。
ノイズの入ったメロディーを雑音まじりと判断するか、それとも美しく情緒的な音だと判断するかは 個人の感性の違いだと思う。
父はその音を愛していた。
音楽はレコード という川の水に溶け、ノイズと混ざり合いながら私たちの耳に聞こえる。
それはまるで自然の川の流れのように溶け込み合い 一つの景色を作っているのだ。
書斎の父、うたたかな光の中で仕事をする父の姿が思い浮かぶ。
「おかえり」
レコードプレーヤーにそっと手を当てる。
そこに宿る父の魂が、帰ってきたと思った。
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