SF・ファンタジー
トマト「トマト」
1,063文字
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庭のプチトマトが沸騰しているのを僕はエアコンの効いた室内から傍観している。
傍観しているのは窓の外が灼熱の夏日和だからであり、外出するにはただただ億劫だからということに尽きる。
夜のうちに収穫しておけば良かったなぁと、これまた他人事のように漠然と思う。
そんなことより小一時間前、妻が今回焦がした洗濯物の中に僕のエアリズムのパンツがあるのだが、それが最後のエアリズムだと彼女に伝えるべきか否かで、僕はトマトが沸騰するまで二の足を百度目を超えてなお今もまだ踏み続けている。
妻は僕が望みうる最良の水準の人で、悲しませるような言動は一切採用しないと決めている。
洗濯物を何度も焦がすのも愛嬌があって良い。洗濯物を何度も焦がすのは彼女が学習出来ないからではなく、僕が一緒になって笑う瞬間を楽しむ為、のような節すらある。
それゆえ遅疑逡巡たらしめるのだ。
残りにある他のパンツは蒸れるから履きたくない。きっと何かの病気になる。
「トマトが煮えてるわね」
と妻が言う。
「昨日までは平気だったのに」
「昨日と今日は違うもの」
「そうだね。繰り返しであっても全ては変わっていく」
「不可逆的、というのは悲劇かしら。それとも予見性のある予定調和?」
「故意か過失かは未だいくばくか検討の余地があると思うんだ」
「何のこと?」
「「いや、何でもない」」
僕の口癖に被せると彼女は小馬鹿にした様子で自慢気に鼻の頭を擦ってみせる。
「幸せが予測可能だとして」
彼女の言いたいことはもう分かる。僕は逆も然り、と言う。
「その時が訪れるまでの期間こそ至福だと思うの」
「「逆も然り」」
僕の口癖に被せると彼女は小馬鹿にした様子で自慢気に鼻の頭を擦ってみせる。
「ねぇあなた。これを見て。また洗濯物が焦げたわ。暑すぎるのよね」
ケタケタと僕は笑ってみせる。
ケタケタと僕は笑いながら一つの事実が僕の笑い皺を浅くする。
何せその焦げた中に最後のエアリズムがあるのだ。
そのパンツ以外は蒸れるから履きたくないのに。きっと何かの病気になる。
でもそれを伝えると妻は決して低くない確率で悲しむ。彼女は僕が望みうる最良の水準の人で悲しませるような言動は一切採用しないと決めている。僕が洗濯すれば良かったね、も慰めとして間違っているのも分かっている。
この灼熱のせいで通販は出来ないし、外に出るのにはいちいちなんやかんや着るのも面倒だし、そもそもユニクロは遠い。
買い出しと言えば、と僕は庭へと目をやる。
プランターの中でミニトマトが沸騰していた。
ああ、昨夜のうちに収穫しておくんだったなぁ、とどこか他人事のように漠然と思う。
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