コメディ・日常
猫とおでん屋
1,059文字
約3分で読了
猫は十年飼い続けると猫又になるという。
正直そんな話は全く信じていなかったけど、三毛猫を見るたびにうちの太郎なんじゃないかなと思ってしまう。
太郎は僕が小学生の時に飼っていた猫だ。
僕が猫を飼っていたのは一度だけ、太郎だけだった。
太郎が10歳になった時、突然いなくなった。僕は手書きの張り紙を貼ったりして ずいぶん探した。
僕が物心ついた時にはもう太郎はいた。
僕が一歳の時に我が家にやってきたらしい。
太郎は猫だけど僕にとって兄弟みたいな気がした。
ずっと一緒に育って、いつも僕の布団に潜り込んで寝ていた。
だから突然いなくなった時は本当に信じられなかった。
猫のことだから、勝手気ままな性格で気が向いたら帰ってくるかもしれない。
僕はずっと太郎が帰ってくるんじゃないかと諦めきれなかった。
やがて僕も大人になる。
実家から遠く離れたところに今では一人暮らしだ。
仕事からの帰り道。
夜の街で野良猫を見ると太郎のことを思い出す。太郎はいつも僕の膝に乗って、何でも分かったような顔をしているのだ。
僕はたまに太郎にちょっとした相談事をしていた。
友達と揉めたこととか、親に怒られたこととか、今もふと太郎のことを思い出すと相談に乗って欲しいな……なんてことを考えてしまう。
今日はちょっとお酒が飲みたい気分だ。
近頃できた居酒屋に初めて入ってみる。
六十代ぐらいの年齢の、三毛猫の毛皮のような模様の半纏を着た大将が、おでんの盛り合わせを出してくれた。
注文した内容にプラスで ちくわが乗っている。
サービスでつけてくれたらしい。
「なんだ元気ないね 兄ちゃん」
「まあね。大したことじゃないんだけど。どうにも僕は要領が悪いみたいで、怒られてばっかりなんだ」
「なーに、若いうちは怒られるのも仕事だよ」
「だよね」
居酒屋の大将と話しながらなんだか僕は太郎と話しているような気分になっていた。
太郎がもし人間だったらこんな風に話を聞いてくれるかもしれない。
気がついたら酔いつぶれていたみたいだ。
どこをどうやって家に帰ったのか、よく思い出せないんだけど 家のベッドの上で目が覚めた。
ポケットにレシートが入っている。
レシートの裏に、
「あんまり飲みすぎるな兄ちゃん。また、愚痴が言いたくなったらおいで」
と書いてあった。
……その横に肉球の形のシミ?
微かにおでんの匂いがした。
もしかしてあの大将は猫又になって、人間に化けた太郎なんじゃないか……
なんて僕は考えたけど、そんなことあるはずがない。
「まさかね」
僕は一言そう言ってレシートを財布になおした。
ニャア、
という鳴き声が聞こえたような気がした。
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