その他

卒業とコンサート

2,548文字 約6分で読了
作者:しとえ
   私はこのきらめきを一生忘れない 「ねえママこのコンサート一緒に行って!こんな機会もう一生ないよ」 そう言って娘は私にスマホの画面を見せる。 憧れのアーティストのコンサート。 それは県内の電車で1時間ぐらいのところで開催される。 「いいわよ……来週の日曜日ね」 「やったーママ大好き!」 中学生と言ってもまだまだ子供だ。 飛び跳ねてはしゃぐ娘の姿を見てその幼さに微笑ましくなった。 ……そういえば私が音華と会ったのは、ちょうどこのぐらいの年齢の時だった。 中学になれば小学校よりも校区が広くなり今まで出会った事がなかった子とクラスメイトになる。 中学1年生の1学期それぞれ初めての自己紹介。 彼女はとても明るい性格で初めての自己紹介の時からとても弾んで楽しそうに自分が好きなもののことを話していた。 音楽が好きな事、ダンスも好きだということ。 確かそんな話をしていたと思う。 彼女の弾んだ声を聞きながら なんとなく私は仲良くなれるような気がした。 私が話したのは確か音楽に興味があること、好きなミュージシャンについて。 放課後、話しかけてきたのは彼女の方からだったと思う。 「ねぇ、彩音ちゃんって呼んでいい?」 まっすぐに目を覗き込んで、それもキラキラした目で彼女はそう言った。 「う、うん」 私は彼女のペースに巻き込まれてしまった。 途中まで、帰り道は一緒だったから2人で話しながら帰った。 それはその日を境に、毎日の日課となった。 中学になって初めての日曜日彼女と遊ぶ約束をした。 私の家で 一緒に好きなミュージシャンの話をしたり、一緒に音楽をやりたいという話をした。 私の方はあくまで希望、夢を語っただけのつもりだったが…彼女は大真面目に本当に計画を立てて実行しようとしていた。 週明けにクラブの同好会を作りたいと先生に相談していたのだ。 「一緒にやろうよアイドル部!」 「う、うん」 アイドル部とはイベントなんかで歌ったり踊ったりしてアイドルの真似事をするクラブだ。 彼女の熱量に押し切られさらには先生も巻き込んで翌週には愛好会を結成! メンバーは始め私と彼女だけだった、2人のユニット。 それで二人でダンスとか歌とかの練習をした。 私は文化祭ででも2人でちょっとだけ発表するだけのつもりだったが……彼女はそうじゃなかった。1ヶ月後、地元のイベントに申し込んで2人で出ることになったのだ。 それはちょっとした話題になった。 地元の広報誌に掲載され中学生アイドル誕生!と書かれた。 あっという間に中学で有名人。 同好会には自分も入りたいという子達が殺到。 私たち2人だったメンバーはあっという間に30人にも増え同好会からクラブになり顧問の先生もついた。 「ねえ、次はせっかくだから私たちの曲を考えようよ!」 「う…うん」 私は彼女の勢いに押されるまま2人で作詞作曲することになった。 2人ともそんなことは初めてのことだ。 なんとか見よう見まねで曲と歌詞を作る。 初めての2人のデビュー曲…と言ってもいいだろう。 イベントの申し込みは2学期になってから向こうからやってくるようになった。 衣装も始めは それっぽいのにちょっとだけ飾りをつけていただけだけど、自分たちでお揃いのものを用意して舞台に立つことになる。 センターは私と彼女。 だけど明らかに目立っていて、みんなが注目するのはやはり彼女なのだ。 私はちょっと気が引けていた。 その頃になると裁縫や舞台美術なんかが得意な子も入部していて裏方をやりたがる子も結構多かった。 2学期の文化祭は大盛り上がり。 私としては 文化祭にちょっと出るだけのつもりだったのにとんでもないパフォーマンスになっていた。 2学期が終わり3学期になってもイベントの申し込みや私たちの舞台は続いた。 私たちはすっかり人気者……というより彼女がすっかり人気者になったわけだけ相変わらず2人で毎日手をつないで帰った。 それがとても嬉しかったけれど1学期の時よりも彼女と距離ができてしまったような気がした。  私たちは2年になった。 アイドル部に入部したいという子が今年もたくさんやってきた。 みんなみんな音華に憧れている。 ……まあ中には私に憧れてる子もいたことはいたっけ。 だけど憧れの音華の隣にいる私のことよく思わない子もたくさんいた。 なんとなく彼女と仲良くすることに罪悪感のようなものが芽生えていた。 私は彼女のことが大好きだったのに…… 活動の幅はさらに広がっていた。 あっちこっちのフェスティバルに行ったり、インタビューに答えたり。 メンバーは私と彼女の ユニットとそれ以外の私も彼女もいるグループ 別の子だけのグループなどクラブ内でもその種類がどんどん増えていった。 秋が来てまた文化祭になりそして冬が来て1年が過ぎた。 中学3年生になった1学期、私は彼女に言った。 「私アイドル部やめるから。もう受験だし……」 「うんそうだね……」 彼女が明らかにショックで悲しんでいるのは分かっている。 その日私は退部届を出した。 彼女と手を繋いで帰ることもなくなった。  彼女は文化祭までやりきってからのクラブの引退だった。 彼女という華をなくしたクラブはすっかり活気がなくなってしまった。 やがて3学期になり高校受験が終わり卒業式の前夜、 彼女から電話がかかってきた。 明日の卒業式の後 一緒に歌おう? 「……どうしたの急に」 「私は彩音ちゃんのことが好きだよ。一緒にアイドル部やれてすごく楽しかった。だからちゃんと最後にみんなの前で歌ってお別れしようよ。文化祭の衣装、彩音ちゃんの分も用意してあったんだ。最後にみんなの前で歌おう?」 突然の申し出に私はどうしていいかわからなかった。 だけど私だって、このままおしまいにするのは悲しい。 「いいよ」 私がそう言うと電話越しに彼女の声はパッと明るくなる。 「本当?すぐにそっちに行くから!」 2人で一緒に歌う曲を決めて、振り付けは2年生の文化祭にした時のだけど……  卒業式の謝恩会。 私はこのきらめきを一生忘れない。  卒業して私たちは別々の高校へ、彼女はその後音楽の道に進み今やすっかり日本を代表するアーティストだ。 私はと言うと普通に高校を卒業して大学を卒業して就職して、やがて結婚して今は中学生の娘がいる。  娘とコンサートに行く日がやってきた。 ステージには音華の名前と姿。 キラキラと輝いて今も人々を魅了し続ける。
2026/09/26 ・ 👁️ 54回 ・ 💬 0件

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