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量子もつれのラブレター
892文字
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私たちは別れることに決めた。
いつか話さなければいけなかったことを、私は目を伏せて伝え、
彼女は無理した笑顔で応えてくれた。
はじめて太陽系外で第二の地球と言える、居住可能惑星が発見されて何十年。
何度も自動ロボットを送り、ついに人類が直接向かう時がきた。
人類の未来を担うパイロット、その中に彼女がいた。
コールドスリープを前提にした往復130年の旅。
もう生きて会うことはない。
でも私は彼女の夢を尊重する。技術者として支援する。
そう決めた。それぞれの人生を送り、お互いを恋人として見ないと。
「『量子もつれ』……。
距離に関係ない通信ができれば、人類史上最長の遠距離恋愛ができたのにね」
「それは無理だって説明したじゃん!」
笑顔で冗談を言い合う。
別れたカップルとは思えない明るいやり取りをする。
そうして、遥か空に旅立つあなたを見送った。
十数年後、航海はまだ目的地までの航路の二割強。
私はまだ独り身。彼女の体感時間ではまだ一週間も経ってないだろうけど。
ぼちぼちアラフォーとも私側は、言えなくなってきている。
上手くいっていれば、船は何光年も離れた先を進んでいる。
定期的にコールドスリープを解き、順調かどうかの通信をしてもらっているが
どうしても今の通信技術では数年単位の遅延が出てしまう。
そんな通信の中に、未練がましいと分かりつつも、私的なメッセージを送ってしまった。
このメッセージが届くのは何年も先のこと。
「起きてる間、ご飯ちゃんと食べてますか?何か困ったことはありませんか?体調を崩していませんか?」
何でもないメッセージ。
別れたときにもう、こういった私的なやり取りはやめるとお互い決めたのに。
あのメッセージを送ってからさらに数年後。
通信の中に、彼女から返信が混じっていた。
いや、返信じゃない。
逆算すると、私が送ったタイミングとほとんど同じ。
「仕事ばっかりしてない?周りとは上手くいってる?無理しないでね。
ごめん、やっぱり愛してる」
内容もほぼ同じ、私を心配するもの。
違ったのは、私が勇気を出せずに書けなかった「愛してる」の一文だけ。
もう少し踏み込んでいたら、私達はちゃんと『もつれた量子』になれたのかな。
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