ホラー・怪談
醒めない夢
1,298文字
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「相談したいことがあって君に会いに来たんだ」
と依頼主は言った。
「君、人の心の中が見えるっていう話を聞いたんだけど」
「それはただの噂だ」
「そうなのかい?だけど君ならば解決してくれるんじゃないかな って思って」
「とりあえず話してみてはくれないか。じゃないと何も解決できないからね」
男は話し始めた。
「毎日夢の中に現れる女性がいるんだ。とても美しい人なんだ。初めの頃はぼんやりと、だけど 近頃は明確に触れるくらいリアリティを感じるんだ。彼女は僕の運命の人なんじゃないかなって思ってる」
そう言って男は似顔絵を差し出した。
正直に言ってあまり上手い絵ではない。
だがその絵を見た時に感じたことがあったのだ。
「君の夢。正直に言ってあんまりいい夢ではないかもしれない。おそらく彼女は実在する人物だ。だけど出会えば君の身に不幸が降りかかってくるよ」
男は顔をしかめた。
「だけど……こんなことを言えばおかしいかもしれないけれど。僕は夢の中の女性に恋をしている。たとえ不幸になっても構わないから夢の中の女性に会いたい。彼女は、彼女は僕の運命の人なんだ!」
男はそう言って似顔絵を大切そうに持ち上げた。
「変なやつだと思っただろ。でも僕は真剣なんだ」
「いいや変だとは思わないさ、だけど不幸になるとしても?本当に君は彼女に会いたいのか」
「もちろん!」
彼はそう言って真剣な眼差しでこっちを見た。
「だったら私からできることは何もない。いずれ君は彼女と出会うだろう。だが本当にいいのか?彼女と出会えば不幸になる。私ならば その未来を回避するために『彼女の夢』を消してしまうこともできるが」
私がそう言うと男は黙った。
「それは嫌です。夢の中の彼女と出会うためならば僕は不幸になっても構わない。いいや、彼女と出会えれば僕は絶対に幸福になる。きっと他人から不幸に見えても僕自身は幸福なんだ」
「ならば私からできることは何もないよ。そのうち彼女に出会うことになるだろうから」
「本当に?」
「ああ」
「本当に僕は彼女に出会える?」
「ああ」
「なんて素晴らしいんだ!ありがとう!ありがとう!彼女は僕の運命の女性なんだ」
男はそう言って似顔絵の女性に口づけをした。
……運命か。
私はテーブルを後にした。これ以上相談に乗っても無駄だろう。
男は自分の運命を受け入れたのだ。
――口付け。
それは呪いにも似て、男の運命を決定づけてしまうものだ。
私が彼の姿を見たのはそれから数年経ってから新聞の紙面でだった。
情事のもつれでの殺人事件。
男は女を殺し、死刑判決を受けた。
留置所の中で男はずっと笑っているらしい。
そのことで弁護士は精神の異常で無罪を勝ち取ろうとしているらしいというのが書かれていた。
確かに、夢の女は彼を幸福にしたのかもしれない。
永遠に醒めぬ夢の中に彼はいるのだ。
もはやどんな音でも目を醒ますことは決してない。
夢に喰われてしまったのだ。
目覚ましの音は虚しく響き、やがて止まって、もう何の音もしない永遠の静寂ばかりが広がってゆくのだ。
――呼び鈴の音がする。
次の依頼主が私を呼んでいる。
次はどんな夢を見て、
醒めたいと望むのだろうか、
それとも夢の中に沈んでいきたいと思うのだろうか。
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