児童文学

まよい森

1,365文字 約3分で読了
1.まよい森とコトリ  むかしむかし、あるところに、コトリという小さな女の子がいました。  コトリは、ふわふわの髪をしていて、にっこり笑うと、まわりの人もつられて笑ってしまうような、やさしい心の持ち主でした。  ある日、コトリはパパとママといっしょに、新しい町へ引っ越してきました。  新しい家は少し古い壁の家で、そのうしろには、大きな森が広がっていました。 「この森は“まよい森”っていうのよ」  町の人たちは、こわばった顔で教えてくれました。 「ふしぎな声が聞こえるし、中に入ったら、もう出られないんだって。だから、近づいちゃいけません」  大人たちは、みんな、まよい森をこわがっていました。  けれど、コトリの目には、その森が、どこかさみしそうに見えたのです。  ざわざわ揺れる木の枝も、かげる夕日もうす暗い光も、なにかをうったえているように思えました。  その晩のこと。  コトリがふかふかのおふとんにくるまって、すやすや眠ろうとしたとき。 「……さみしいよう……」  どこからか、小さな声が聞こえてきました。  風の音かな?  夢の中の声かな?  それとも……ほんとうの声?  次の夜も、そのまた次の夜も、声はかすかにひびいてきました。  コトリは、どうしても気になって、とうとうひとりでこっそり、まよい森へ行ってみることにしました。  森の中は、ひんやりと冷たく、しんと静かでした。  木の枝がざわざわと揺れて、まるで「おいで」と言っているみたい。  コトリは、ふかふかの苔におおわれた道を、ちいさな足で、ぺたん、ぺたんと歩いていきました。  すると、とても古い大きな木の前に、たどりつきました。  そのとき、 「……見つけてくれたの?」  すぐそばで、かすかな声がしました。  コトリがふりかえると、そこにいたのは、すきとおった、まっ白な小さなおばけ。  おばけの子は、しょんぼりとした顔で、コトリを見あげました。 「さみしかったの。みんな、わすれちゃったの。わたしのことも、森のことも……」  そう言って、おばけの子は、コトリの手をそっとにぎりました。  その手は、ひやっと冷たいのに、ふしぎとやさしさがいっぱいでした。 「……いっしょに、あそんでくれる?」  コトリは、こくんとうなずきました。  ふたりは、森の中でかくれんぼをしました。  コトリが木のうしろにかくれると、おばけの子はふわりふわりとさがしにきます。  葉っぱをつかってままごともしました。小さなおさらにのせた葉っぱのお料理を、ふたりで「いただきます」と言って、わらいあいました。  あそんでいるうちに、暗かった森は、だんだんとやさしい緑の光につつまれていきました。  ざわざわしていた木も、どこかうれしそうに見えました。  ふたりは、なんどもなんども、にっこり笑いました。  やがて、外が明るくなりはじめました。  大人が目をさますまえに、コトリは家に帰らなくてはいけません。  森の出口まで来ると、おばけの子は、にっこりして言いました。 「ありがとう。あなたが、わたしの声をきいてくれて、うれしかった」  その姿は、やわらかい光になって、森の奥へと消えていきました。  コトリは、そっと手をふりました。  その夜から、まよい森の「さみしいよう」という声は、もう聞こえなくなりました。  でも、コトリにはわかっていました。  森は、ちゃんと見ていてくれる。  そして、こたえてくれる声があれば、もう、さみしくなんてないのです。
2026/10/04 ・ 👁️ 34回 ・ 💬 0件

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