恋愛

写真の中の君

1,774文字 約4分で読了
作者:しとえ
我望むあの日の君の春の世に 花ほころびて再会の時  その時に想ひを伝えよう。 だからどうかそれまで待っていて欲しい。  古びた写真の裏にはそう書かれていた。 その写真が一体いつからあるのか、写真に写っているのが誰なのか、一体誰が書いた言葉なのか、僕も家族も誰も知らない。 その写真は書斎の奥から見つかった。 写真には微笑む乙女の姿が映し出されていた。  だから思いもしなかった。その写真にそっくりな女性にこれから出会うことになるなんて。  高校の入学式。 満開の桜の下、これからの学校生活を送る同級生たちと初めて顔を合わせる。新しく着た高校のブレザーはまだ借り物みたいで、どことなく着心地が悪い感じがした。これから始まる高校生活に戸惑いがないと言えば嘘になる。地元からは少し離れた私立高校であるため同級生に知っている顔はいない。  ほころぶ花と舞い散る花びら。 花びらが黒髪にかかり、笑う乙女の姿が僕の目の中に飛び込んできた。僕はその姿を知っている。 微笑む乙女はあの写真と生き写しだったからだ。 驚きのあまり呼吸ができなくなる。  彼女の姿を映したものだったのか……?  いやそんなはずはない。 あの写真はモノクロで古ぼけていて、撮られたのはおそらく家族の中の誰も知らないほど昔だ。  だけど他人の空似というにはあまりにも写真の中の乙女とその姿が一致する。 彼女が僕の視線に気がついてこちらに振り向いた。 僕は気まずくなって軽く会釈をすると後ろを向いて足早にその場から立ち去った。  今日は半日授業、入学式が終わったら家に帰る。 帰りの電車の中でずっと彼女のことを考えていた。家に帰ったら確認しよう。 すぐに書斎の写真を探す。 ……やっぱりそっくりだ。  心臓が高鳴る。 写真はモノクロだったけれど、まるで抜け出てきたようにそっくりな女性。写真の中の微笑む乙女と今日出会った女の子の笑顔が重なる。 舞い落ちる桜の花びら微笑む彼女の姿。 心臓の鼓動が早くなる。 一体彼女は誰なのだろう? 僕はその写真をこっそりと持ち出した。  翌日、しばらくためらった後写真をカバンの中に入れる。 思ったほど似ていないかもしれない。昨日はそっくりだと思ったけどそんなことはないのかもしれない。僕の思い過ごしに違いない。心の中でそう唱えカバンを背負って家を出る。 それだというのにずっとドキドキしている。 やがて電車は止まり僕は高校に向かって歩き出した。  教室に入ると彼女の姿が見えた。 やはり似ている。いや似ているなんてもんじゃない、写真の中の乙女がもし現代にいたらきっとこんな感じだろう。 その姿は生き写しだった。 席順が決まり、隣の席に彼女が座った。 「君、昨日私のこと見てたでしょ?」 放課後、彼女の方から僕に声をかけてきた。 「いや、その」 気まずくなって、しどろもどろになってしまう。 「仲良くしてね!里中君」 笑う笑顔は、写真の中の乙女よりもさらに魅力的にいきいきと輝いていた。 僕の心臓はますます早くなる。  家に帰って写真の中の乙女を眺めた。 一体これは誰の写真だったのだろう。 祖父が言うにはおそらく、曽祖父かその兄弟だろうということだった。昭和の初期ぐらい町の写真館では街で評判の美人のブロマイドなんかを売っていたらしい。 おそらくそのブロマイドの一枚だろうと話していた。 真実は分からないけれど……  5月になって僕と彼女はずいぶんと仲が良くなった。 ある時に思い切ってあの写真を見せてみた。 「あー、これ多分ひいおばあちゃんだと思う」 彼女は笑顔でそう言った。 「同じ写真が家にあるんだ!何枚か似たような写真も。写真館でモデルを頼まれたみたい」 「そうなんだ」 彼女は裏に書いてあるメッセージを眺める。 「これって里中君のひいおじいちゃんが書いたの?」 「分からない。もしかしたらひいおじいちゃんの兄弟かも、戦争に行って亡くなったって聞いてるから」 「もしかしたら、里中君の大おじさんと私のひいおばあちゃん恋人同士だったのかな」 「そうかもしれないし、片思いだったかもしれない」 「そっか……そうだね」 「生きていたらもしかしたら私と里中君親戚だったかもしれないね。あ、でもその時は私もしかして生まれてない?」 あっけらかんとそう話す彼女に僕はちょっとだけ苦笑いした。 「それは困るね」 「そうだね!」  彼女の笑い声が楽しそうに響いた。 僕たちは未来に向かって生きていく。 ――あの写真のその先の未来へ。
2026/10/17 ・ 👁️ 29回 ・ 💬 0件

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