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雨音と、ほどけるブラウス——先輩の甘い香りに溺れる夜

1,913文字 約4分で読了
 窓を叩く雨音が、やけに大きく室内に響いていた。  時刻は午後八時を回ったところ。  定時をとっくに過ぎたオフィスには、もう私と結月《ゆづき》先輩しか残っていない。 「ひゃっ……冷たっ」  外回りから帰る途中で急な土砂降りに遭い、私はすっかり濡れ鼠になってしまっていた。  傘を持っていなかったため、駅からの短い距離を走っただけで、白いブラウスが肌に張り付くほど濡れてしまったのだ。 「栞《しおり》ちゃん、おかえり。……って、すごい濡れてるじゃない」  パソコンに向かっていた結月先輩が、弾かれたように立ち上がる。  黒髪のボブティアーに、タイトなネイビーのスーツ。いつも隙がなく、社内でも高嶺の花として有名な先輩だ。 「すみません、急に降ってきて……」 「謝らなくていいから。ほら、給湯室に行くよ。タオル貸してあげる」  先輩は私の手首を掴むと、半ば強引にオフィスの隅にある給湯室へと連れ込んだ。  誰もいない、薄暗い給湯室。  蛍光灯のスイッチを点けると、先輩は自分のロッカーから清潔なバスタオルを取り出し、私の頭からバサリと被せた。 「風邪、引いちゃうよ」  そう言いながら、タオル越しに私の髪をわしゃわしゃと拭いてくれる。  先輩との距離が、近い。  普段から憧れていた彼女の、ふわりとしたバニラとムスクが混ざったような香水が、雨の匂いと混ざって私の鼻腔をくすぐった。 「あ、あの、先輩……自分でやりますから……」 「いいの。私にやらせて」  少し低く、耳元で甘く響く声。  その声色にドキリとして顔を上げると、至近距離に先輩の顔があった。  長いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳が、獲物をねめ回すように私をじっと見つめている。 「……髪だけじゃなくて、服も下着も透けてる」  先輩の視線が、私の胸元へと下りる。  雨に濡れた白いブラウスは透明度を増し、下に着ていたキャミソールや肌の輪郭までをくっきりと浮き彫りにしていた。 「っ……見ないでください……!」  恥ずかしさで両腕を交差して胸元を隠そうとしたが、それよりも早く、先輩の白く細い指が私の手首をふわりと押さえ込んだ。 「どうして? すごく、綺麗なのに」 「せん、ぱい……?」  いつもの凛とした先輩とは違う。  どこか熱を帯びた、とろけるような瞳。  先輩の手が私の手首から滑り落ち、濡れて冷え切った私の首筋へと触れた。 「ひゃあ……っ」  冷たい肌に、先輩の温かい指先が触れる。  その温度差に、思わず甘い吐息が漏れてしまった。  先輩の親指が、私の鎖骨をなぞるようにゆっくりと這う。  ゾクゾクとするような快感が背筋を駆け抜け、膝の力が抜けそうになる。 「栞ちゃん、震えてる。……寒いの?」 「……さむい、です。だから……」 「そっか。じゃあ、温めてあげなきゃね」  言い訳を塞ぐように、先輩の顔が近づいてきた。  チュッ、という小さな水音が給湯室に響く。  唇の端に、先輩の柔らかい唇が落とされた。 「……っ!?」  驚いて目を見開く私を逃がさないように、先輩の片手が私の後頭部を引き寄せる。  そして今度は、まっすぐに唇が塞がれた。 「んっ……ふぁ……」  ちゅ、れろ……という、卑猥《ひわい》な音が静かな空間に響き渡る。  ただ触れ合うだけじゃない。先輩の舌が、私の唇を割り入って、甘い痺れを口内にもたらしていく。  私の舌を絡め取り、味わうように深く、深く。  息継ぎの隙間すら与えられないほどの濃厚なキスに、頭のなかが真っ白になっていく。 「はぁっ……ん、せんぱ……だめ、ここ、会社っ……」 「誰もいないよ。聞こえるのは、雨の音だけ」  唇をわずかに離し、銀色の糸を引きながら先輩が妖艶に微笑む。  その目には、私に対する隠しきれない独占欲が渦巻いていた。  先輩の手が、私のブラウスのボタンへと伸びる。  カチ、と一番上のボタンが外され、濡れた布地がゆっくりと肌から剥がされていく。 「あ……」 「栞ちゃんの肌、すごく冷たい。もっと私が、熱くしてあげるから」  ブラウスの隙間から滑り込んだ先輩の手が、私の腰をそっと撫で上げた。  直接肌に触れる指先は火傷しそうなほど熱く、そこから伝わる熱情に、私の身体はビクビクと反応してしまう。 「声、抑えなくていいよ。……私しか、聞いてないんだから」  耳たぶを甘噛みされ、私は堪えきれずに小さな喘ぎ声を漏らした。  先輩の香りと、まとわりつくような熱い吐息。  濡れた服の冷たさなどとうに忘れてしまうほど、私の身体の中心には熱い火が灯っていた。 「栞ちゃん……可愛い。全部、私のものにしたい」  再び重なる唇。  今度は私から、先輩の首に腕を回してその熱に応えた。  外の雨音は、もう二人の吐息と水音にかき消されて聞こえない。  この嵐が過ぎ去るまで——いや、過ぎ去った後もきっと。  私はこの甘く危険な先輩の腕の中から、抜け出せそうになかった。
2026/10/14 ・ 👁️ 54回 ・ 💬 0件

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