SF・ファンタジー
人には言えない事
618文字
約2分で読了
言えなかった言葉は
どこに行き どこへ消えるのだろう
僕にも どうしても言えなかった言葉の
一つや二つはある
初恋の人に好きだと言えなかったとか
親に素直にありがとうと言えなかったとか
そんな言葉はやがて 行き場を失くし
空へと還るのだろうか
人がやがて
記憶を想い出に換えてしまうように
形を変えながら
最後には 失くなってしまうのかもしれない
ずっとそう思っていたんだ
でも
それはとても哀しい事だと思う
言いたかった言葉
言えなかった言葉
言葉として形成される事も叶わず
音として発せられる事もなく
ただ消えゆくだけなんて
そんなの悲し過ぎる
だから僕は 言えなかった言葉を憐れんで
行く先を見届ける事にしたんだ
言えなかった言葉は その人の心の中に留まり
いずれ 記憶の移ろいと共に
誰の耳にも届く事はなく やがて消えてなくなる
そう思って追い掛け 辿り着いた先は
意外なところだった
そこには
立派な大木が立っていて
たくさんの葉が風に揺られていた
思い掛けず息を飲んだ
まさかこんなところへ
行き着くとは思わなかったから
僕が言えなかった
初恋の人への好きだとか 親への感謝だとか
もっと他愛ない 言えなかった言葉 諸々
もう本人でさえ覚えてない様な言葉すらも
その一つ一つが葉になって
大樹を形成していたんだ
見事な大木の前に言葉が出なかった
そうしたらまた一枚 葉が増えた
今まで憐れんでいた
言えなかった言葉の末路
見事な葉をたずさえたその樹の名前は
『言の葉』
言えなかった言葉で出来上がった大木は
何も言わずに 僕の前にそびえ立っている
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