その他
鍛冶屋の兄弟
1,634文字
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「今日からこいつはお前の兄弟だ、同じように鍛冶の修行をしてもらう」と。
そう父は言いました。
ある日、私が工房で領主様への納品物を作っていると
父が私と同じ年頃の少年を連れてきたのです。
どこで拾ってきたのか、服はボロボロで「臭い」という言葉では、
到底収まらない異臭を放っており、何を話すにしてもボソボソと喋り聞き取りづらい。
服も臭いも母が、翌日には何とかしたようですが、
そんな奴が兄弟など信じられません。
当然そういった考えは私だけでなく、親方である父の弟子たちは彼に冷たくしました。
彼が間違った方法で作業を進めていても誰も止めない。
そればかりか、父の目を盗んでは嫌がらせなどしておりました。
私はそれを見て止めはしませんでした。
ですがそんな下らないことをしているから、「程度の知れる品」しか作れないのだと、他の弟子達を見下し、知らぬ存ぜぬの態度を貫きました。
父を超える鍛冶師になれるのは、やはり私だけだとまた火の中に金物を入れます。
奴はまた弟子達の嫌がらせで納品物をダメにし、父に報告しておりました。
父は「そうか」とばかり返します。
頭の良い父が、嫌がらせに気付かないはずないのですが、それ以外は何も言いません。
ますます、奴を連れてきた理由が分からなくなりました。
ですが、その答えはすぐ分かりました。
私が十歳から六年かけて覚えた業を、生意気にも一年で覚えたのです。
その頃から、嫌がらせは目に見えて減るばかりか、自信を無くした弟子達はどんどん辞めていきました。
父は奴の才がどんな言葉よりも鋭く輝くと分かっていたのです。
もう一年が過ぎる頃には、奴は完全に親方の右腕でした。
……そしてある晩、奴と父が話しているのを目にしました。
その話の中で奴が若い父の「過ち」でできた自分の本当の兄弟だと知り、
父は今までの事を、泣きながら謝っていました。
「あいつとは違う。お前には本物の才がある、どうか跡を継いでほしい」
悔しかった。
どんなに屑でも、父の鍛冶師としての腕前と目利きがいかに本物か私は知っています。
私は明くる日から、その悔しさをぶつけるように鍛冶にのめり込みました。
何故か奴は、父とはあまり仕事以外で話さなくなりましたが。
「認められたくせに」と私の嫉妬の火は、工房のそれより更に燃え上がりました。
二人を見返したい一心で鎚を打ちました。
何度も、何度も。
何度も……。
疲労が溜まっていることに気付かず、大怪我を負うまで。
その疲れが足にまで来ていたことに気付かず、私は作業中よろけてしまいました。
そうして思わず鉄すら赤熱させる火の中に一瞬とはいえ、手を入れてしまったのです。
工房中に私の声が響きました。
この際、水につけても心音の度に走る激痛などどうでもよかった。
幸い利き手ではなかったものの、こんな手ではしっかり道具を掴めません。
弟子達の次の嫌がらせ先は、私に向きました。
きっと今までの態度が気に食わなかったのでしょう。
治らない怪我ではないものの、奴との差は開くばかりです。
何度目かの夜に私は自害しようと、自らが昔作った出来損ないの刃物で、
自分の喉を裂くつもりでした。
それを奴は見つけ、必死に止めました。
「離せ!」と叫ぶ私の声に、奴は普段なら考えられない大声で叫び返してきました。
「家族が死ぬのを止めぬ者がいるか!」と。
理解できぬことを言われ、私の手から刃物が落ちると奴は、またボソボソとした喋りに戻り、続けます。
「父は……その……結局は一度、自分を見捨てた者だ。
母も頭では納得しているようだが……。
でも工房に入って、一心不乱に鎚を打つ君を見た。」
「……身近で見てきた君の技術が、な、何より美しく羨ましかった。
自分もこんな凄い物を、作ってみたいと、そう思った」
「本当の、本当の意味で、私の居場所を作ってくれたのは君なんだ……」
そう続けました。
――明くる日、私の知らぬところで何かあったのか。
私への嫌がらせは止みました。
私は……兄の大きな背中を今度こそしっかり見つめ、追いかけようと心に決めました。
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