コメディ・日常
雨にも負けず、風にも負けず、雪には勝った
1,490文字
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今年は米の値段の暴落がひどい。
去年の半額の値段だ。あんまりだと思う。
そりゃ、消費者からしてみたら買いやすいかもしれないけれど、中東情勢の不安定さから原油価格の高騰でコストの方は跳ね上がっているのに。
時給換算したら農家の儲けというのは時給二百円くらいになるのだが、だったら農業をやめればいいという簡単な問題ではない。
そんなことをすれば、あっという間に田んぼだったところは雑木林になって荒れ放題になってしまうだろう。
そんな風にするわけにはいかない。
だが近所の田中さんも今年いっぱいで農業をやめると言っていた。田中さんは今年で八十歳になるのだから仕方がないと言えばそれまでなのだが。
それに今年はこの米の値段だ。
やめようか考えているという人は家の周りで田中さん以外にもいるのだ。……わからなくもない。
俺はまだいいが、専業農家の人はもっと 大打撃だろう。
ため息が出る。
農協に米をおろして家に帰るとコーヒーを一杯。
息子が『雨ニモ負ケズ』を朗読している声が聞こえた。
「雨にも負けず、風にも負けず」
俺だってそうだ。
宮沢賢治が農業大学の先生をしていた時は本当にこの詩のように頑張っていたのだろう。
子供の頃、この詩の『暑さの夏にオロオロ歩き』という言葉の意味がわからなかった。夏は暑いじゃん、と子供心に思っていたのだ。
だが大人になればどういう意味かわかる。
農業は気候に左右される。
特に東北の方だったら夏の冷夏で米が育たない。
田んぼの周りを見回りながら様子を伺う。
俺も宮沢賢治と同じように、夏にはオロオロと歩いている。
宮沢賢治がいた時代よりも俺たちの時代はずっと農業が楽になったのだろう。
様々な機械が導入され、俺みたいに兼業農家でもなんとかやっていくことができる。
だが最近の燃料費の高騰、農業をやっていた団塊世代はもう80代になる。俺たちみたいな団塊ジュニアが頑張っても日本の農業は衰退していくのではないだろうか。
ニュースでは今年の米の値段が下がって喜んでいる町の人々の声が放送されている。
俺たち農家から見れば、たまったものではないが。
「隆くん、おかえり!」
ああ、ただいま
妻が入ってきた。
「お疲れだったね!お菓子どうぞ」
俺の目の前にコトンとクッキーの皿をおく。
「ありがとう」
そう言って一つ、つまんで口に放り込む。
妻の手には農協の旅行パンフレットが握られていた。
「ねえ、今年も行かない?」
冬のスキーツアーのチラシを俺に渡す。
俺は手に取ってしばらく考えた。
毎年、妻とスキーに行くのは俺の楽しみだったりする。
いつもこの秋の米が収穫が終わった時期に申し込んでいる。
確かに家族でスキーに行くのはとても楽しみだが……
「たまには違うところでもいいんじゃないか?みゆきちゃん毎年スキーだと飽きてこない?まさるも大きくなってきたんだし、ディズニーランドとかでも」
「私、全然そんなことないよ!隆くん飽きちゃった?」
「いやそんなことはないけど。まさるも大きくなってきたんだしディズニーランドとかでも」
「ディズニーランド はさすがにちょっと人が多すぎて、私はスキーの方がいいな。それに隆くんが滑ってるところ、めちゃくちゃかっこいいもん」
妻のストレートな物言いにドキッとする。
「そうか、じゃあ今年もスキーにしようか」
俺は恥ずかしくなって新聞で顔を隠した。
「よし決まりね!じゃあ申し込んでおく!」
彼女はそう言ってパンフレットを持って行った。
独身時代からお互いスキーが好きで……
だけどこんな風に ストレートに言われると、さすがに心臓がドキドキとする。
俺は心の中で小さくガッツポーズを取った。
雨にも負けず、風にも負けず……
だが雪には勝った!
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