SF・ファンタジー
静寂の世界
1,792文字
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「とうとう完成してしまった…。」
世の中には何に使うかわからない発明品が沢山ある。とりあえず作ってしまって、その後に有効的な利用方法を確立した発明品も多い。この度、教授が開発した「音吸収機」も、そういった発明品の一つだった。
「教授、その機械は一体どういった機械なのですか?」
隣にいた学生が聞いた。
「この発明は驚くなかれ、周りの音という音をすべて吸収してしまう機械なのだよ。正確に言うと大気中の振動を一つ残らず吸収してしまう。このつまみを設定することによって、その範囲は自由に拡大縮小することができる。例えば…。」
そういって教授は機械のつまみをグリグリっと回した。
「…。」
「…。」
そこには完全なる静寂があった。教授や学生が何か喋っても、口をパクパクさせているだけで、声は一切聞こえない。教授は悦に入った顔をし、機械の電源を切った。
「これは…すごいですね。それで、この機械の活用法は?」
「それは考えていない。私の頭は新しい発明品をこしらえるためにあるのだ。その先は他の人間が考えればいい。とにかく、今日は完成の祝賀会だ。」
教授はそう言って、研究室を後にした。
この「音吸収機」はしばらくは相手にされなかったが、噂を聞きつけた政府関係者の男が、機械を使いたいと申し出てきた。
「この機械、使いようによっては我々の暮らしをより一層豊かにしますよ。例えば、工場が出す作業音。これを消せば、近隣住民はかなり暮らしやすくなる。高速道路の騒音や、飛行機の離着陸時に発生する騒音を消すなどはどうでしょう?音を消すということは大気中の振動を無にするということ。つまり、ロケットの発射において発生する衝撃波もかき消せます。いや、本当に素晴らしい機械だ。」
教授は男のアイデアに感動した。発明することしか脳のない教授にとって、男のアイデアは実に素晴らしいものに聞こえたのだ。
自分の発明した機械が世のために使われる。これほど発明家冥利に尽きることはない。
「そうですか。それならば、この機械はお貸ししますので、ぜひ世の中のために使ってください。しかし、まだまだ研究の価値はありそうだ。もう少し発展した研究をしてみよう。」
教授はその日から「音吸収機」及び「音」について研究を重ねた。
数年が経ち、研究に研究を重ねた教授は、ある大発見をした。なんと、音はそのままエネルギーとして使用できるのだ。その大発見のヒントになったのはあの政府関係者の男が言った「ロケットの衝撃波」だった。音も規模が大きくなると、鉄をも砕くパワーになる。教授は早速機械を作り始めた。
さらに数年後、教授はその機械を完成させた。その機械は、「音吸収機」に、教授が新たに発明した「音圧縮機」を置き、その音を圧縮する。さらに「音圧縮機」の隣に音をエネルギーに変える「変換器」を備え付けた、大変大袈裟な機械だった。
「これはノーベル賞ものだぞ。世の中のエネルギー事情が根本から覆ることになる。このエネルギーは大気汚染もなければ、地球温暖化の心配もない。その上音を吸収するのだから有限な資源でもない。」
教授は喜びに震えた。
早速、あの政府関係者の男が教授のもとにやってきた。
「教授、素晴らしいですよ。この機械を使って世の中を変えてしまいましょう。エネルギー不足が解消されれば、人類が持っている諸問題のほとんどが解消される。ところで、これは私のアイデアですが、この機械をぜひ海沿いに置きましょう。そうすれば機械は永遠に波の音を吸収し続けることになる。どうです?完璧な計画でしょう?」
教授は男の言葉に再び感動した。確かに海沿いにこの機械を設置すれば永遠に潮騒を吸収し続け、無限のエネルギーを手に入れることができる。男と教授は固い握手を交わした。
数ヶ月の議論の後、国家事業として試験的にこの機械が設置されることとなった。場所は首都に隣接する湾。全国の人々はこの事業に大きな期待をし、見守った。
結果は思った以上だった。潮騒の音で、街中のエネルギー全てを賄うことができた。国中がこの大発明を称賛した。教授はこの年、一番注目された人となった。
その後、国中のエネルギーを賄うため、静寂の世界は海の向こうにどんどん広がっていった。人々は無限のエネルギーを手に入れ、いっそう暮らしが豊かになった。しかし、機械の向こう側で未曾有の大津波が迫っていることには、誰も気がつくことができなかった。
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