ミステリー・サスペンス

少年探偵タケル:きえた「たいよう」のなぞ

3,153文字 約7分で読了
作者:河内謙吾
「ただいま、お母さん! 今日のタケル探偵は、とっても難しい事件を解決したんだよ!」  夕方、リビングのドアを勢いよく開けて、1年生のタケルが飛び込んできました。  背中の大きなランドセルをよいしょと下ろし、得意げに胸を張っています。  お母さんはキッチンから顔を出し、にっこり笑ってタケルを迎えました。 「おかえり、タケル。今日も『少年探偵』の出番があったのね。どんな事件だったの? おやつを食べながら、お母さんに詳しく教えて?」  テーブルの上に、焼き立てのクッキーと牛乳が並びます。タケルは探偵さながらに、小さめのノートをポケットから取り出して、大真面目な顔でページをめくりました。 「事件が起きたのは、今日の5時間目、図工の時間だよ。1組の全員で『大きなお城』の壁画を作っていたんだ。みんなで画用紙に絵を描いて、ハサミで切り取って、大きな模造紙にペタペタ貼るの。僕の役は、お城のてっぺんに輝く『大きな太陽』を描くことだったんだ」 「ほう、大役じゃない。上手に描けた?」 「うん! クレヨンの一番新しい『だいだいいろ』を使って、ギザギザのカッコいい太陽を描いたんだ。それをハサミで綺麗に切り抜いて、先生の机の上に置いておいたの。のり付けの順番を待つためにね。……なのに、のりを持って戻ってきたら、僕の太陽が、机の上から綺麗に消えちゃっていたんだ!」  お母さんはクッキーを一口かじり、ふむふむと頷きました。 「それは大変。誰かが間違えて持っていっちゃったのかしら?」 「僕も最初はそう思った。でもね、僕の太陽はすごく大きいし、一番目立つ『だいだいいろ』だから、間違えるはずがないんだ。それに、そのとき先生の机のまわりには、5人の友達しかいなかった。……つまり、この5人の中に、僕の太陽を隠した『犯人』がいるってことさ!」  タケルはノートに書かれた5人の名前をお母さんに見せました。 1. ケンタくん(お城の『おふね』を貼りに来た) 2. ミクちゃん(お城の『お花』を貼りに来た) 3. ショウタくん(お城の『兵隊さん』を貼りに来た) 4. ハルトくん(お城の『お星さま』を貼りに来た) 5. サクラちゃん(お城の『お姫さま』を貼りに来た) 「わあ、容疑者が5人もいるのね。タケル探偵、ここからどうやって捜査を始めたの?」 「ふふん、まずは『現場検証』だよ。僕はお母さんがいつも言っている『よーく観察しなさい』って言葉を思い出したんだ。先生の机の上には、僕の太陽はなかった。でも、そのかわりに『手がかり』が残されていたんだ」 「手がかり?」 「そう。先生の机の上に、ちっちゃな『黄色のクレヨンのカケラ』が落ちていたんだ。ポロッて。でもね、僕が太陽を描くのに使ったのは『だいだいいろ』だけ。黄色は一回も使っていない。ってことは、この黄色のカケラを落とした人が、太陽を盗んだ可能性が高い!」  お母さんは感心したように目を丸くしました。 「なるほど、鋭い着眼点ね! じゃあ、その5人の中で、黄色い絵を描いていた人が犯人?」 「そう思うでしょう? だから僕、5人が持っていた絵を順番に見て回ったんだ。……そしたらね、なんと5人全員の絵に『黄色』が使われていたんだよ!」 「あらら、全員? それじゃあ絞り込めないわね」  タケルは悔しそうに牛乳をゴクゴクと飲み、口のまわりに白いヒゲをつけながら続けました。 「ケンタくんのお船は、黄色い旗がついていた。ミクちゃんのお花は、真ん中が黄色。ショウタくんの兵隊さんは、服のボタンが黄色。ハルトくんのお星さまは、全部が黄色。サクラちゃんのお姫さまは、髪の毛が黄色。全員が黄色いクレヨンを使っていたんだ」 「うーん、迷宮入りかしら?」 「ううん、タケル探偵はあきらめないよ! 僕はもう一度、現場に残された『黄色のカケラ』をじーっと見たんだ。そのカケラはね、ただ削れただけじゃなくて、なんだか『ネバネバ』したものが混ざっていたんだよ。ちょっと白くて、ベタベタするやつ」 「白くてベタベタ……? クレヨンじゃなくて、別の何かがついたのかな?」 「そう! そこで僕は閃いたんだ。これは、図工の時間にみんなが使っていた『白いのり』だ、って! 犯人は、自分の絵にのりをつけて、それを先生の机に貼りに来たときに、クレヨンのカケラを落としたんだ。……でもね、ここで不思議なことが起きたんだ。5人の手元を見たら、ケンタくん、ミクちゃん、ショウタくん、サクラちゃんの4人は、みんな『スティックのり』を使っていたんだよ」 「スティックのりは、手が汚れない固形ののりよね。ネバネバはしないわ」 「そう! じゃあ、残りのハルトくんは? って見たら、ハルトくんだけは、指でぬる『ツボのり』を使っていたんだ。ハルトくんの指は、のりでベタベタだった。だから、ハルトくんが星を貼るときに、指についたのりとクレヨンが混ざって、机の上に落ちたんだよ。つまり、現場にカケラを落とせるのは、ハルトくんしかいない!」  お母さんは「パチパチ」と小さく拍手をしました。 「すごいわ、タケル! じゃあ、犯人はハルトくんだったのね。でも、どうしてハルトくんは太陽を隠しちゃったの? 仲が悪かったの?」  タケルは少し真面目な、優しい顔つきになりました。 「ううん、ハルトくんとはいつも仲良しだよ。だから、僕も不思議だった。ハルトくんのところに行って、『ハルトくん、僕の太陽、どこにあるか知ってる?』って優しく聞いたんだ。そしたら、ハルトくん、顔を真っ赤にして、泣きそうな声でこう言ったんだ」  タケルはノートの最後のページを開きました。そこには、ハルトくんの描いた「お星さま」の絵のスケッチが描かれていました。 「ハルトくんはね、『ごめんなさい、タケルくん。僕、お星さまをたくさん描いたんだけど、お昼の明るい空にお星さまを貼ったら、全然見えなくなっちゃうって気づいたんだ。お城のてっぺんには、タケルくんの大きな太陽がピカピカ光るから、僕の星は負けちゃうと思って……悔しくて、太陽を自分の道具箱の中に隠しちゃったんだ』って」 「まあ……。ハルトくんも、一生懸命描いた自分の絵を、みんなに見てほしかったのね」 「うん。ハルトくんの気持ち、僕もよく分かったんだ。自分の絵は一番カッコよく見せたいもんね。だから僕、ハルトくんに言ったんだ。『ハルトくん、それならいいアイデアがあるよ!』って」 「どんなアイデア?」  お母さんが身を乗り出すと、タケルはニヤリと笑いました。 「ハルトくんのお星さまをね、僕の太陽の『まわり』にたくさん貼るんだよ。太陽の光が強すぎて、お星さまがキラキラ輝いてるみたいに見えるようにね! 先生にお願いして、模造紙のてっぺんをそういうデザインにしてもらったんだ。そしたら、ハルトくんの星も、僕の太陽も、どっちもすごくカッコよくなったんだよ!」 「まあ、素敵! 最高の解決方法ね」 「ハルトくん、すっごく喜んで、僕に『ありがとう、タケル探偵!』って言ってくれたんだ。太陽もちゃんと返してくれたよ。だから、今日の事件はこれでおしまい!」  タケルは満足そうに残りのクッキーを口に放り込みました。お母さんはそんな小さな探偵の頭を、愛おしそうに何度も撫でました。 「犯人を見つけるだけじゃなくて、お友達の心までハッピーにするなんて、タケルは本当に名探偵ね」 「えへへ、それほどでもないよ。……あ、そうだ、お母さん!」 「なあに?」 「次の事件は、おうちの中で起きてるよ。僕のノートの虫眼鏡で見ちゃったんだ」 「えっ、なにかしら?」 「お母さん、さっきから僕とおしゃべりしながら、クッキーを僕よりたくさん食べてるでしょ! 犯人はお母さんだ!」 「あら、バレちゃった?」  リビングに、親子の明るい笑い声が響き渡りました。小さな探偵のまわりには、今日も温かくてカラフルな笑顔が満ちあふれています。
2026/09/23 ・ 👁️ 121回 ・ 💬 2件

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読者の感想・応援メッセージ

河内謙吾
しーとす様
ありがとうございます☺
かわいいタケル探偵の今後の活躍はいかに!?
乞うご期待!
しーとす(ゲスト)
かわいい探偵さんですね
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