ミステリー・サスペンス
珈琲地獄
491文字
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眼下には大海の如く広がる珈琲豆。
その香りに手を引かれ、僕は飛び降りる他無かった。
ジャリジャリと砂のような小石のような質感が、この身体を愛撫する。
ドリッパーの「詰まり」に辿り着き、もうこれ以上先は無いと知る。
僕は膝を抱える。
この香りのガスに包まれて窒息するのならそれもいいと思えてくる。
やがて香りが変わった。
次の瞬間、熱湯が染み渡ってくる。
━━熱い。
そしてただの熱湯だった液体は瞬く間に染まり珈琲と化す。
溺れるのか。
同じ窒息でも何か嫌だな。
そんな意識すらもやがて抽出され、肉体を放れ、ドリッパーを離れ、液体となる。
上から抽出液が垂れる度、僕の体積は増えていく。
窮屈な濃度も、いずれは薄まり最適化された。
上空のドリッパーは去り、僕は浮遊し、世界は傾き始める。
なれば当然、誰かの口に入るのだろう。
期待も予測も裏切られない。
ズズズという揺れと共に、抗える訳もなく流される。
せめてと、舌上の味蕾に爪を立て、僕という存在を刻む。
さて、この後は……。
やがて意識は混沌とし朦朧とし、誰かの肉体に吸収され混ざっていく。
意識は戻り、瞼を開く。
手に持つカップは空だった。
眼下には珈琲豆の海が広がっている。
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