コメディ・日常
玉手箱を壊すとき
1,213文字
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押入れの中から玉手箱が出てきた。
いや、正確には小学校の頃に作った玉手箱を模した木彫りの箱だった。
パキッ!
開こうとすると蝶番が外れて、蓋がずれる。
……経年劣化なのかもしれないが、少し寂しい気持ちになった。
蓋をそっと床に置く。
中から出てきたのは封印された手紙だった。
「懐かしいな」
何とも言えない苦々しい気持ちとノスタルジアが胸の中に広がっていく。
実を言うと、この箱が壊れたのはこれで二回目だ。
一度目はこの箱を作った時、小学生の五年生の時の授業だった。
誰も作ってないようなアイディアで、とびっきり素敵な箱を作ろう! と私は意気込んでいた。
竜宮城の乙姫様からもらった玉手箱をイメージして、周りに貝殻やヒトデ、魚の絵を書いて深い海の色合いを塗り重ねてゆく。
私は最高の玉手箱を作ったつもりだった。
だけど全員の作品ができて並べた時に、私と全く同じアイディアで、それも私よりほんの少し出来の良い作品を出した子がいた。
当時の私の親友だった。
私は教室の窓から自分の玉手箱を放り投げた。
そしてワアワアと泣きながら廊下を走り去って図工室から五年生の教室の隅まで行って泣いた。
先生が走ってやってきて……
その後どうなったのか自分でもよく覚えていないのだが、放課後に私は自分が作った玉手箱をもう一度作り直した。
先生が付き添ってくれたのを覚えている。
私はその親友のことが大好きだったけど、実を言うとほんの少し嫌いだった。
彼女はいつも私よりほんの少しだけ良くできるのだ。
勉強もスポーツも図工も、それから人間関係だって。
……好きなのに嫌い。
今思い出してもあのモヤモヤとした気持ちは、自分で処理できなかった。
中学に入って、私は好きな人ができた。
彼に渡せないラブレターを毎日書いて、それからどうしようかと考えあぐねいて、この玉手箱の中にそっとしまっていたのだ。
半年ほどしてその私の好きな人と親友が付き合い始めたのを知った。
私はこの玉手箱を閉じて、押入れの奥に隠した。
そして今までそのことをすっかり忘れていたのだ。
手紙を開くと、当時の苦々しい想いが蘇ってくる。
ホームセンターで蝶番を買ってくる。
貝殻の模様のちょっとおしゃれな蝶番だ。
壊れた玉手箱を修理する。
やがて修理が終わった箱にそっと手紙を入れた。
正直に言うと、中学の時に好きだった男の子の名前をもう思い出せない。なぜそんなに好きだったかも思い出せないのだ。
親友とその子はどうなったのかも全く覚えていない。
別々の高校に行ったのは知っているし、彼女が結婚したのはその男の子ではないのでおそらく彼らの交際は自然消滅したのだろう。
彼女とは正月の年賀状でやり取りするぐらいで、もうずっと会っていない。元気なのは確かなようだ。
ほろ苦い思いをまた玉手箱の中にしまい込むと、私はそれを再び 押し入れの中に直した。
当時の苦々しい思い出はなく、ほんの少しノスタルジックな甘さが加わった思い出になって。
また玉手箱は押入れの中で眠るのだった。
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