ホラー・怪談

サティはお好き?

844文字 約2分で読了
ああ、今日もジムノペディがこの部屋にはピッタリだ。 昔は悲壮感を感じた。 でも今は……割れたコップの欠片を、もう一度割ったって何も変わらない。 この部屋には余計なものが何もない。 全て、完結している。 友達がおすすめしてくれたマウスを、一昨日燃えるゴミに出した。 あの人と一緒に買ったカトラリーを、昨日燃えないゴミに出した。 家族との思い出がつまったアルバムを、シュレッダーにかけた。 たくさんご飯を食べたローテーブルを。 色んなものをこぼして、はげちゃげた絨毯を。 待ち遠しかった粗大ごみ回収の予約日にようやく出せた。 部屋を見渡した。 家具がないと、こんな広かったんだ。 ここに何年住んだか、もう覚えてないな。 何もないから、音楽が反響して聴こえる。 赤い陽射しが、床に置いたスマホだけを照らしている。 ふと窓の外に目をやると、綺麗な直線の雲が均等に並んでいた。 すじ雲だっけ? 今日は少し風が強いんだね。 でも……嵐じゃない、大雪でもない。 ドラマチックな日じゃない。 今日が何の変哲もないからこそ、ここが現実だって否が応でも理解する。 同じく何の変哲もない私にピッタリだ。 泣いてばかりで。 いつしか泣けなくなって。 ウソの笑顔を通して。 それすら放棄してしまった何の変哲もない私に。 サティは満足しているだろうか? ちゃんと曲に耳を傾けない、私の部屋にある唯一の「家具」になれて。 ああ、間違っていた。 余計なものがひとつだけあった。 日が暮れて赤色が遠くなるのを見送った。 いつの間にか、音楽がサティの明るい曲に変わっている。 ようやく最後の余計なものを、今から失くす気になれた。 時間差で届く予定のメールを確認する。 封筒にしまった手紙を確認する。 少しでも迷惑が減るかと思ったけど、それでも大家さんには申し訳ない。 出しそびれたシュレッダーゴミくらいは許してくれるよね? ―― 夢を見た。 いないはずの両親に抱きしめられる夢。 喧嘩別れした友達と遊ぶ夢。 そして、私の笑顔に泣いてくれたあなた。 私の中に余計なものが満たされる。 ジムノペディはもう聞こえない。
2026/10/15 ・ 👁️ 31回 ・ 💬 0件

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