コメディ・日常
ゴーストライター
461文字
約1分で読了
秋晴れの十月、小説家の兄が死にました。
僕が兄のアパートへ一ヶ月ぶりに顔を出しますと、兄は敷布団の上で腐り散っておりました。
黒ずんだ手にはボールペンが握られ、近くにあった低い机には「明日目が覚めたら続きを書く」というメモ書きが残っていました。
きっと、死ぬ寸前まで小説を書く気だったのでしょう。アマチュアよりも未熟で、本も自分が遊ぶ程度にしか作ったことがないくせに。
それから慌ただしく葬儀やアパートの整理が行われ、気づけば僕の手には兄の残したメモ書きと手帳だけが残りました。
僕は、貧乏を極めながら自由にこの世を遊んで暮らす兄が憎かったです。けれど、兄が文章を書き続けられなかったことの方が、もっと憎いです。
僕は、悔しかった。兄がもう文章を書けないことが。悔しい、悔しい、悔しい。僕は初めて、兄のために泣きました。
それから、僕は兄の代わりに文章を書き始めました。兄が、明日目が覚めたら書きたかった続きを、勝手に書き始めました。
それは償いでも、何でもありません。僕が文章を書くのは、何も言わずに遠くへ行った貴い兄への復讐なのです。
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