児童文学

ぼくのあめのひスイッチ

1,793文字 約4分で読了
作者:河内謙吾
「あーあ、きょうもピッカピカにはれてるな」  てるおくんは、ベランダのまどをあけて、おっきなためいきをつきました。  おそとは雲ひとつない青空です。おひさまが、まぶしそうにニコニコ笑っています。  ほんとうなら、お外でおにごっこをしてあそべる大好きな天気のはずでした。  でも、今のてるおくんには、このおひさまがちょっぴりうらめしく思えます。  なぜなら、3日まえにおじいちゃんから、最高にカッコいいプレゼントをもらったからです。  それは、カエルの目玉がついたみどり色のカッパと、おそろいのみどり色の長靴でした。 「雨、ふらないかなぁ」  てるおくんは、まいにち部屋のなかでカッパを着て、長靴をはいて、ぴょんぴょんとジャンプしていました。  お母さんには「お部屋で長靴をはくのはやめて!」とおこられてしまいます。  外であそぶのは楽しいけれど、いまのてるおくんは、どうしてもこのカッパと長靴を「本番」でつかいたくてたまらなかったのです。  4日目の午後、ついにそのときがやってきました。  お部屋でミニカーであそんでいると、急にまわりがうす暗くなりました。  おひさまが、大きな黒い雲にかくれたのです。  ポツ。……ポツポツポツ。  まどのガラスに、ちいさな水滴がぶつかる音がしました。 「あ、雨だ!」  てるおくんの心臓が、ドキン、と大きくはねあがりました。ずーっと待ちのぞんでいた、ほんものの雨です。 「おかあさん! 雨! カッパ! 長靴!」  てるおくんは、あわてておもちゃを放りだし、玄関へダッシュしました。うれしすぎて、手と足がいっしょにうごいてしまいそうです。 「おちついて、てるちゃん。あせらなくても雨は逃げないわよ」  お母さんの声なんて、耳にはいりません。てるおくんは、カッパをハンガーからひったくりました。 「うわっ、手が、手が通らない!」  あせればあせるほど、カッパのそでに腕がうまくはいりません。  みぎの穴にひだりの手をつっこんでしまい、カッパのなかでモゴモゴともがきます。やっと頭を出せたと思ったら、今度はボタンがうまくはまりません。 「ちがう、そこじゃない! ひとつズレた!」  ボタンをかけちがえて、カッパのすそがチグハグになってしまいました。  でも、もうがまんできません。てるおくんは、そのままのいきおいで長靴に足をツッコみました。  すぽん、すぽん!  あつめの靴下をはいていたので、すこしきつかったけれど、力まかせにおしこみました。 「いってきます!」  ガチャンと扉をあけて、てるおくんは飛びだしました。  お外は、しっとりとした雨の世界。  空からふってくる冷たいしずくが、カッパの頭のフードを「トントン」とやさしく叩きます。 「わあ……!」  はじめて着たカッパは、雨をちゃんとはじいて、てるおくんを守ってくれました。  あしもとを見ると、アスファルトのくぼみに、ちいさな水たまりができています。  てるおくんは、みどり色の長靴で、そのまんなかへ思いきりジャンプしました。  バシャーーーン!  あがった水しぶきが、おひさまの光とはちがう、キラキラとした宝石のように輝きました。  てるおくんは嬉しくて、カエルのように何度も何度も、水たまりをぴょんぴょんはねまわりました。 「ゲコ、ゲコ、ゲコ」  どこからともなく、カエルのなき声が聞こえてきました。  てるおくんはあたりを見わたしましたが、カエルのすがたは見えません。 「あれれ? カエルさん、どこにいるの?」  てるおくんが草むらを見ると、ぴょんぴょんとカエルが出てきました。  カエルも、てるおくんと同じ、雨を待っていたようです。 「あっ! いた! きみも雨が好きなの?」  てるおくんはカエルと同じようにぴょんぴょんとはねながら、となりで話しかけます。 「てるちゃん、かぜひくからもう帰っておいで」  お母さんがやさしく声をかけます。 「はぁい。じゃあまたね、カエルさん!  また、雨がふったらあそぼうね!」  てるおくんはカエルとやくそくをして、おうちに帰っていきました。 「てるちゃん、雨、楽しかった?」 「うんっ! カエルさんとつぎのあめの日も遊ぶんだ!」 「そう、よかったね」  お母さんはやさしく笑いながら、てるおくんの頭をタオルでふいてあげました。 「さあ、おやつにしましょう」 「やった! きょうのおやつはなんだろう?」  くんくん。 「あっ! クッキーだ!」 「せいかーい。手をあらっていっしょに食べよう」 「わーい!」  てるおくんは元気にへやに入っていきました。  つぎのあめの日は、いつだろう。  
2026/09/30 ・ 👁️ 59回 ・ 💬 0件

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