SF・ファンタジー

王子と不思議な少年

1,947文字 約4分で読了
作者:秋犬
 昔むかし、ある国に若い王子がおりました。王子は宮廷の暮らしが退屈になり、こっそり城下町に遊びに出かけました。城下町には王子の見たことのないものがたくさんあり、王子の心は躍りました。  さて、日暮れが近づいて王子が城に戻ろうと思ったときのことでした。城までの道を急ぐ王子にぶつかった者がありました。 「す、すみません!」  普段であれば衛兵が「無礼者!」と狼藉者を斬り捨てるのですが、今日は衛兵はいません。王子はぶつかった身なりの貧しい少年と互いに詫びを交換しました。 「あ、あのこちらこそ申し訳……!」  互いの顔を見て、二人は驚きました。なんと二人の顔は瓜二つ、生き別れの双子と言われても信じてしまいそうなくらいそっくりだったのです。 「君はどこから来たんだい? 名前は? 家族は?」  それから王子は少年を物陰に引き込んで、様々なことを尋ねました。少年も偶然王子に出会って、大変驚いているようでした。そして、王子は良いことを考えました。 「ねえ君、よければ僕と服を交換しないかい? 君が一日王子になって、僕は一日君の格好をして自由を満喫したいんだ!」  王子はとても良い考えだと思いました。少年も快く王子の提案を受け入れ、二人は服を交換しました。王子はこれで城に帰らなくてよくなった、と飛び上がりながら町の中へ走って行きました。  王子は初めての自由に惚れ惚れとしていましたが、夕暮れはいよいよ夜に変わろうとする時間になりました。腹が減った王子は何か食べたくなりました。ところが持ってきたお金は先ほどの少年に服ごと預けてしまったことに気がつきました。普段であれば腹が減っていなくても時間になれば食事がもらえます。ところが今日は何もなし、です。家へ帰る人の流れに、夕飯を屋台で買って帰る人たちの笑顔が重なります。王子がふらふら歩いていると、屋台の店主にしっしと追い払われました。王子は初めて人から除け者にされる惨めさを味わいました。 「ああ、僕はなんて世間知らずだったのだろう!」  父王は領土を広げるために毎日大臣や軍人たちとどこへ戦争を仕掛けるかを話しています。王子も成長したら、この国を大きくするためにたくさん戦争をしようと思っていました。そのせいで国民がどうやって生活をしているかを知らなかったのです。王子がとぼとぼ歩いていると、急に首根っこを掴まれて物陰に引き込まれました。 「おめえ、一体どこほっつき歩いているんだ!」  それは恐ろしい大男でした。王子は返事をしようとしましたが、怖くて声が出ません。少年の知り合いのようでしたが、少年から王子はこの男について何も聞いていません。 「城の軍隊が俺たちを嗅ぎつけたようだ。こっちはせっかくの収穫があったっていうのに、むざむざ掴まってたまるか!」  王子は男が何の話をしているのかわかりませんでした。それからどこかの建物の地下室に連れて行かれました。地下室にはたくさんの人が集まって、王子を見てため息をつきました。 「やはり本物そっくりだ」 「替え玉作戦なんてよく考えたものだな」 「こいつとあの王子をすり替えて、身柄を盾に謀反だなんてよく考えたものだ」  王子はどきりとしました。ここにいるのは城に悪意を持っている者たちで、そして自分たちが攻撃されようとしていることはよくわかりました。 「すり替えたところで、本物の王子はどうするんだ?」 「そんなの、俺たちの血税を絞った極悪人だ。容赦する必要はない」  王子は生きた心地がしませんでした。すると、地上のほうがやけに騒がしくなりました。 「王国軍の手入れだ! 皆逃げろ!」  しかし王国軍たちはすぐに地下室に集まった者たちを捕らえました。恐怖のあまり動けなくなっている王子の元に、王子と服を交換したあの少年が現れました。少年は王子に恭しく敬礼をしました。 「ご無事でしたか、王子様」  それから聞いた話は、王子にとって初耳のことでした。元々、王子と容姿がよく似ていた少年は影武者として極秘に育てられていました。あるとき謀反の計画が軍部の耳に入り、そこで極秘の計画が立てられました。 『僕が囮になって城下町を歩き回って、謀反を起こしている連中のアジトを突き止めるよ』  王子と同じ顔をしている影武者なら、よからぬことを企む輩が放っておかないと影武者は考えたのです。そして計画通り、謀反の計画は阻止されて影武者の少年は急いで王子を助けに来たのです。 「でも君、どうして服を交換したときに何も言ってくれなかったの?」 「だって、王子様があまりにも楽しそうにしていらしたので。僕は王子様の幸せを常に願っているのですから」  その答えで、王子はこの影武者の少年がとても好きになりました。それから王子は少年と共に成長し、国民のことをよく気に掛ける王様になったということです。めでたしめでたし。 〈了〉
2026/10/19 ・ 👁️ 43回 ・ 💬 2件

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