コメディ・日常

深夜のコンビニ

2,115文字 約5分で読了
作者:河内謙吾
A:この間さ、夜中に小腹が空いたから近所のコンビニに行ったのよ。 B:夜中のコンビニはつい行っちゃうよな。肉まんとか買いたくなるし。 A:そうそう。でさ、レジに商品持って行ったら、すっごいハキハキした深夜のバイトの男の子が立ってたのね。 B:あー、夜中なのに元気な店員さんだと、こっちもちょっと嬉しくなるよな。 A:いや、元気とかのレベルじゃないの。俺がカゴを置いた瞬間に、その店員が「いらっしゃいませ! 本日は数あるコンビニの中から、当店をお選びいただき誠にありがとうございます!」って深々とお辞儀したんだよ。 B:丁寧すぎるな。高級ホテルじゃないんだから。 A:でさ、俺がポテトチップスとお茶をレジに出したの。そしたら店員が、ポテトチップスの袋を両手でうやうやしく掲げてさ、「こちら、ジャガイモの命を限界まで薄くスライスし、油の海で試練を与えた一品でございます」って紹介してきたんだよ。 B:言い方が大袈裟だよ。ただのうすしお味だろ。 A:お茶の時もすごかったよ。「こちらは、富士山のふもとで育った茶葉が、自らの人生をかけて絞り出した一滴にございます。温めますか?」って。 B:冷たいペットボトルのお茶を温めるなよ。 A:だから俺もちょっと圧倒されちゃって、「いや、そのままで大丈夫です」って言ったの。そしたら店員が「かしこまりました。そのままのあなたを受け入れます」って言ってきた。 B:お前を受け入れるなよ。お茶をそのままにするだけだろ。 A:そこからお会計に移るんだけど、その店員が「ポイントカードはお持ちですか?」って聞いてきたのね。俺、持ってなかったから「ないです」って答えたの。 B:まあ普通はそこで終わりだよな。 A:そしたら店員が、ものすごく絶望した顔になってさ。「……左様でございますか。ポイントという名の『小さな幸せ』を、お客様は自らドブに捨てるお覚悟なのですね」って、泣きそうな声で言ってきたんだよ。 B:ドブに捨ててねえよ。ただカード作ってないだけだろ。 A:あんまり悲しそうな顔をするから、俺も申し訳なくなっちゃって、「じゃあ、今から作れますか?」って聞いたんだよ。そしたら店員が急に笑顔になって、「ありがとうございます! では、こちらの用紙に、お客様の『前世の記憶』をご記入ください」って言ってきた。 B:書けるわけねえだろ。名前と住所を書かせろ。 A:俺も「前世の記憶はちょっと覚えてないです」って断ったら、店員が「チッ、これだから現世の人間は」って小さく舌打ちしたんだよね。 B:急に態度悪くなったな。何なんだよその店員。 A:で、支払いの時さ、俺が千円札を出したの。そしたら店員がその千円札を透かして見て、「お客様、こちらの野口英世ですが、少しお疲れのようでございます。代わりに私が、この英世をマッサージしてもよろしいでしょうか」って言い出した。 B:お札をマッサージすんなよ。シワが伸びるだけだろ。 A:あいつ、レジの下からちっちゃいマッサージ器取り出して、千円札の野口英世の肩のあたりをトントン叩き始めたんだよ。 B:印刷された肩を叩くな。時間の無駄だろ。 A:でさ、やっとお会計が終わって、袋に詰めるってなった時に、店員が「袋はご利用ですか?」って聞くから、俺は「あ、じゃあ一枚ください」って言ったの。 B:今は有料だからな。 A:そしたら店員が、レジ袋をパッと広げてさ、「こちらの袋ですが、最大で『夢と希望』が3キロまで入る仕様となっております。本日はどちらを詰め込みますか?」って聞いてきた。 B:ポテトチップスとお茶を詰めろよ。それ買いに来たんだから。 A:俺もそう言ったの。「ポテチとお茶を入れてください」って。そしたら店員が「……お客様は、現実主義者でいらっしゃるのですね。夢を追うことを忘れた大人ほど、哀しいものはございません」って、また勝手に落ち込み始めたんだよ。 B:うるせえよ。コンビニのレジで人生を説教される筋合いねえわ。 A:最終的にさ、袋に商品を入れて手渡してくれる時に、その店員が俺の目をじっと見てこう言ったんだよね。 B:最後はなんて言ったんだ? A:ひと言、「お気をつけて。この先、右に曲がると『未来』、左に曲がると『過去』に繋がっております」って。 B:怖いよ。ただの十字路だろ。 A:俺、怖くなって、とりあえず真っ直ぐ進んだの。そしたら、気がついたら自分の家のリビングにいたんだよね。 B:あ、真っ直ぐ行ったら家だったんだ。 A:ううん。コンビニの自動ドアを出て、一歩踏み出したら、もうリビングのソファの上だった。 B:ワープしてんじゃねえか! A:で、手元を見たら、コンビニの袋の中に、ポテトチップスとお茶じゃなくて、見たこともない「光る球体」が入ってた。 B:それ、さっき店員が言ってた「夢と希望」じゃねえか。 A:いや、店員からの手紙が入ってて、「お買い上げありがとうございます。こちらは店長の生霊でございます」って書いてあった。 B:一番いらねえよ! 返品してこい! A:いや、もう返品出来ないんだよね。 B:なんでだよ。返すだけだろ。 A:もう食べちゃった。 B:いや、店長の生霊食ったんかい! もういいよ。 A・B:ありがとうございました。
2026/09/23 ・ 👁️ 118回 ・ 💬 0件

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