SF・ファンタジー
「スライムおじさん」
1,859文字
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「りゅうちゃん放課後一緒に帰ろ? わたし今日お留守番なの」
「ぼく今日、裏山行くよ。かなちゃんも行こうよ」
「またスライムおじさんのとこ? 先生は行っちゃだめって、言ってたよ」
「でもおじさん言ってたんだ。スライムと遊びたかったら一緒にいる時間がいっぱいいるって」
「危なくないの?」
「ぜんぜん」
チャイムが鳴り、色とりどりのランドセルが流れるように校舎から出てくる。ほとんどは同じ方向へ流れ進みそれぞれの帰路を正しく辿る。
その中で二つ。小さな二人は群れから逸れ、悪びれる様子もなく裏山へと進む。
まだ黄色い太陽はジリジリと二つの帽子を照らし、麓の木々は歓迎するように葉を鳴らした。
「あ! おじさん!」
リュウジは川べりに倒れている人を指差し、駆け出す。「おじさん」の右のふくらはぎには水色のスライムが覆うように乗っていた。
周りの何匹かはそれを眺めているかのように無造作に散らばり囲っていた。
「おお。お前か」
「りゅうちゃん! おじさんスライムに襲われてる!」
「おじさん、大丈夫なの?」
「さっき、ちょっと枝で切っちまってな。今、スライムが治してくれてんだ」
しばらくもたたないうちに仕事を終えたスライムはぴょこぴょこと跳ね、または擦り進み、当然のように徘徊を始める。傍観していたスライムたちも同様に活動を始める。
「あのスライムはおじさんの友達?」
とリュウジはおじさんのふくらはぎには興味を示さず、他のスライムに紛れてしまったおじさんの友達を探していた。
「どうだろうな。たまたまだからなぁ。でも治してくれたんだから友達なんだろうな」
「おじさんは、ここで、何してるの?」
はっきりとした口調で、思い切ったようにカナが問う。
「おじさん」はよっこらせと木の枝を拾い、砂利を避け土肌に直径1メートルほどの円を描く。
次にその枝でスライムを刺し円の線上にポテっと落とす。
「見てなよ」
スライムは線に沿ってずりずりと進み始める。進んだ跡の線は薄くなっていた。
「線を食べてるの?」
とカナ。
「ははは! そうかもしんねぇな。ほら、もうすぐ一周しちまうからお前さんらで線を足してやんな」
二人は拾い上げた枝で円から線を描き延ばす。スライムは正しく沿って進む。
気が付けば周りのスライムたちも加わり、みな線を「食べて」いた。
「ぼくたち友達になれたかな!?」
眩しいリュウジの瞳に、男は柔らかく頬を緩め、頷く。
「そのうち顔を覚えてもらえるさ。そしたら助けてくれるかもしんねぇな」
「ねぇ、おじさん」
飽きたのかカナは枝を放っていた。
「スライムは、生きてるの?」
「……なぁお嬢ちゃん。ここのスライムは何で水色なんだと思う?」
「川があるから?」
「そう正解だ! 木の上にいるスライムは緑だし、這いずり回ってるスライムは茶色だ」
「それで、生きてるの?」
「スライムって食べれるのかなぁ?」
カナの後にリュウジが続け、リュウジは「おじさん」の表情を見てギクリとする。
「なぁ、お前ら。もうここには来るな。今まで黙ってたけどな、スライムがいる所には熊が出るんだ。だからスライムにもう近づくな」
「だっておじさん! スライムと友達になれるって言ってたじゃん!」
リュウジはこの「大人の言葉」に経験がある。
またごまかそうとしている。
嘘をつこうとしている。
「じゃあこうしよう。スライムは絶対食べちゃいけねえ。何があってもだ」
「死ぬの……?」
怯えるカナと、リュウジは眉間を寄せ未だ男を睨み上げていた。
「死ぬより怖いことが起きる」
とわざとらしく声を低くする男に
「おじさんは、嘘ついてる!」
リュウジは食ってかかる。
「ぼくたちがスライムと友達になったら、友達取られちゃうから、おじさん嘘ついてるんだ!」
まいったなと言わんばかりに男は頭をボリボリ掻き、
「じゃあ本当に約束だ。スライムは友達だ。だから絶対いじめたり、ましてや食べたりするんじゃねえぞ。分かったな」
と、下手な白旗を上げ、宥め、子どもらに背を向けた。
当たり前じゃんと、言い捨て、すっかり機嫌を損ねたリュウジは、ひったくるようにランドセルを拾い上げ、背負う。
バイバイも告げずに歩き出すとカナの走り寄る音がした。
「りゅうちゃん! スライムぜったいおいしいんだよ」
「かなちゃん、スライムは友達だよ。食べちゃだめだ」
「でもきっとその内おじさんが全部食べちゃうよ」
「え……?」
「そうなる前にさ、食べてみようよ。こないだバーベキューでパパから火の付け方教えてもらったの!」
「焼いたら、そうか、お腹壊さないよね」
「お塩とタレも持ってくるね!」
「うん! かなちゃんと一緒に来て良かったよ!」
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