SF・ファンタジー

始まりはファシスト

1,535文字 約4分で読了
作者:珈琲時間
「ひと昔前、ファシストという言葉があってね」 「はい。存じ上げています。独裁的、全体主義的思想の信奉者のことですよね」 「さすが記者さん。お若いのによく勉強されてる。それでね、いずれ排他的思考あるいは権威性への批評語として使われることとなったんだ」 「主に、人種差別へのカウンターとして使われていた時代ですね」 「そうだね。今ではしばしば、リベラル主義の暴走と揶揄されたりもするけれど」 「先生は、それが発端だとお考えで?」 「発端、という表現が正しいのかは疑問だがね。ただ、その後のFF(エフエフ)がある種の転機だったとは考えている」 「F3(エフスリー)の前ですか?」 「その認識で合っているよ。論議にファシストという言葉を用いて、相手を『危険思想』に分類し、正当性ごと切り捨てる。その手段を使う者をFFと蔑称した。つまりファシストと言った者が今度はFFと呼ばれる」 「FFの語源は諸説あるというのが一般的ですが」 「元はネットスラングだから。ファシスト・ファシストだとか、それこそF言葉だったりね。良いように使われていたよ。ところで、そのコーヒーの感想をいただけるかな?」 「えっと、正直に申し上げますと、なんと言うか焦げ?が強いような…」 「その時代のコーヒーはだいたいこんなだったんだ。今となっては、ビニール栽培で着香された物がすっかり主流になっているけど。やはり君ら世代には物足りないかい?」 「…私はストロベリーの香りが好きなので…」 「ははは! すまない、ありがとう。話を戻そう。ファシストがFFと呼ばれ始めたところだったかな?」 「はい。その……ただの、罵り合いのようにも思えるのですが……」 「いやいや、その通りさ。しかし発達したSNSがもたらした物の中に権威性の可視化がある」 「フォロワー数……」 「そう。ある日、当時世界一と謳われたある起業家がFFの概念を支持する、と宣言したんだ。するともう翌日には、新聞やニュースでこぞってそれを取り上げた。まさに燎原の火。過去の投稿で相手をファシストだと発言した者たちが一斉にFF扱いされ始めたのさ」 「そして、そのFFへのカウンターがF3……?」 「F3はもはや議論ですらなかった。あの頃のメディアは先の事が本当に見えていなかったんだ。インプレッションが稼げれば何だって取り上げて大袈裟にした。何しろいわゆるレッテル張りは、論理的思考が得意でない者、つまりメディアの主要顧客の為に存在しているからね。F3の存在が、批判をすること自体への批評語となって普及し、みな黙るようになったんだ」 「なるほど。そうして生まれたのが先生のような『批評家』というわけですね」 「反論の余地を与えない、同時に炎上可能性を分析し、恐れずに批評する専門家。つまりは皆、というか支持者の代弁士的立ち位置だね。実は、正直なところ、僕には滑稽にすら思える。ただ、それでフォロワーどころか資金までもが集まるようになったからね」 「SNS通貨が一般普及していなかったら、どうなっていたと思いますか?」 「さっき言った、権威性の高い者が『批評家』を買い叩いていたと思うよ。事実、僕も『そういう人』から多額の資金を得ている。今ほど公平性が担保されたかと言われると、それは明確に違っていたかもしれない」 「それ、書いちゃって大丈夫なんですか?」 「匿名であれば問題ない。多くの『同業者』も同じだ」 「それで。今、先生方を批判する声が年々高まっています。そのことについてはどうお考えですか?」 「僕個人の考えというより、彼らに伝えたいことがある。だから君の取材に応じたんだ」 「かしこまりました。それで、伝えたい事とは…?」 「『次はお前たちの番だ』だ」 「なるほど。苦いですね」 「だからやめられないんだよ」
2026/09/23 ・ 👁️ 117回 ・ 💬 0件

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