コメディ・日常

レオの誤読

783文字 約2分で読了
 お昼時のイタリアンなファミリーレストランは賑わっていた。ニンニクや焦がしたチーズ、トマトソースなどが混ざり合った匂いが漂っている。流れる陽気なイタリアンポップスが店内を明るく照らしていた。だが、僕たち二人のテーブルだけは、どんよりとした雲がかかっているようだった。 「自信あったんだけどな。ユキは『いいよ』と言ってくれると思ってた」  目の前に置かれた鉄板の皿の上で、ジュウジュウと音を立てているハンバーグを見つめながら僕は呟いた。 「仕方ないよ。ユウトは何も悪くないさ」  イタリアの留学生レオはそう言いながら、ペペロンチーノの上に乗った一本の赤唐辛子をフォークの先で皿の縁へ追いやった。隣のテーブルではカップルの笑い声が弾んでいる。交際を始めたばかりの雰囲気を感じた。 「まさか同じサークルの小倉と付き合ってるなんて、聞いてびっくりだよ」  僕は呆れながら口に出した。 「知ればみんな驚くさ」  レオはパスタの山から少し引き出し、塊に戻らないようにしながら丁寧にフォークで巻き取った。 「サークル辞めようかな。ユキと小倉がいる空間に何だか居づらいよ」  僕がそう言葉をこぼすと、レオはパスタが絡まったフォークを口元へ持っていかずに皿の上に置いた。 「ユウト、それは間違ってるよ。テニスが嫌いになったんじゃないだろ。堂々と笑顔でいよう。『笑う門には福来たる』だろ」  レオは真っ直ぐな目で僕を見た。 「わかったよ」と返すとレオは微笑んだ。 「まだ日本に来て一年経ってないのに、日本語ペラペラだし、ことわざも知ってるなんて。レオには敵わないな」  僕はそう言ってハンバーグを頬張った。雲間から光が差し込み、青空が顔をのぞかせた気がした。  レオは皿の縁によけていた唐辛子をパスタの下に潜り込ませ、得意満面な笑顔を見せて言った。 「ユウト、『能ある人は鷹の爪を隠す』だろ」  僕はフォークを口に運んだまま固まってしまった。
2026/10/06 ・ 👁️ 88回 ・ 💬 0件

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