SF・ファンタジー

中間管理職の憂鬱

1,214文字 約3分で読了
作者:HarukaR
 いったいどうすれば、皆を満足させられるんだ?」  彼はおおいに悩んでいた。  彼は『苦情受理・対応課』課長。  組織における、いわゆる中間管理職だ。  彼が率いるのは、際限なく入ってくる不平不満に耳を傾けて対応するための部署。  苦情を減らし、現状における最大多数を満足させるよう努めるのが、主な業務だ。  対応が悪いと文句を言われることは多い。が、残念ながら、感謝されることはあまりない。  仲間内で『貧乏くじ』係と呼ばれている課でもある。 「できるだけ、あのお方のお気持ちに沿いたいのだが」  彼は天を仰いで、ため息を吐いた。  今日も彼は多忙だった。  彼が、部下たちが、どんなに必死に善処し続けようが、満足することなく自分の要求ばかり通そうとする人間はいつだって存在する。  他のモノが妥協してくれるときでも、人間は自分の利益のみを優先させろと訴える。  あまつさえ、どういう方法かわからないが、忙しい上司に直訴しようとする、不届きな人間まで現れる。  いっそ上司が直接、事にあたってくれればいいのに、と思うこともある。  基盤を築き上げ、運用ルールを定めたのだから、その先を丸投げするのはあんまりじゃないだろうか?  まあ、そういうわけにはいかない決まり事があるのだろうが。  正直言って、頭が痛い。  部下たちはほぼ不眠不休で働いていてくれている。  しかし、彼らの要求はあまりにも多岐にわたる。  一人の願いを叶えても、別の人間の不利益になり苦情の元になってしまう。  そんな事例も少なくない。  上司が掲げる最終目標は『居住者たち全てを満足させて幸せに導くこと』。  そんなの、どうやっても、不可能じゃないだろうか? (いっそ、不都合なことはすべて忘れてしまえればなあ。そうできれば、少しは気が楽になるんだが)  思わず、そう弱音を吐いたとき、天啓のごとく、解決案が閃いた。 *  *  * 「愛していたのに!この浮気者!あなたを殺して私も死ぬわ!」  刃物を振り回して恋人に詰め寄っていた女の顔から、すっと怒気が消えた。 「あら、素敵な方。お名前を教えてくださる?」 「こいつの命が惜しければ、社長を連れてこい!」  不当解雇を訴える男が元同僚にナイフを突きつけて叫んだ。 「やむを得まい。射撃班に連絡を」 「しかし、それでは人質の命が」  刑事たちの動きが止まった。  男がナイフを投げ捨てて、周囲を不思議そうに見回していた。 「あれ、刑事さん?何か事件ですか?」 「大変です。A国が我が国に向けて核ミサイルを発射した模様です」 「なんだと!嘘つきDめ。停戦の約束を反故にしやがって。お返しに核ミサイルを首都に食らわせてやれ。国民は核シェルターに緊急避難を」  そう命じた直後・・・  P総統は部下たちと顔を見合して微笑みあっていた。 「なんだか、ひどく穏やかな気分だな。久しぶりにお茶でもどうだ?」 * * *  その日、人類は嫌なこと全てを忘れ去り、誰もが幸せな気分になった。  そして、地上は大混乱に陥った。  彼が上司《神》にこっぴどく叱られたのは、言うまでもない。
2026/10/02 ・ 👁️ 98回 ・ 💬 0件

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