恋愛

春なんて

672文字 約2分で読了
鬱陶しく舞う、桃色の花びらが私は大嫌いになった。 大好きなあなたとの別れ。 それを否が応でも理解させられるようで。 ―― あなたの授業は私の胸を暖めた。 内容なんて何も入っていない。 でもあなたの内側を知る私には…… 必死に取り繕う、あなたの姿が可笑しくて愛おしかった。 夜更かしでできた隈を隠すコンシーラー、伸ばしてたのに切った爪。 爪、私があげたネイル使ってくれたんだね。 私もリップ使ってみたよ。 この専門学校では珍しく毎日レディーススーツを着こなし、不真面目な生徒にはしっかり注意する厳しいあなた。 でも私には―― 目が合った、私はいつも微笑む。 先生は一瞬の硬直ののち、踵を返す。 ……分かってるよ。 この教室で私だけが『生徒』じゃない優越感が堪らなかった。 大学受験が嫌で、でも就職も嫌で。 オトナになるまでの時間稼ぎで入った専門学校。 でもあなたのおかげで、学校も学校外も幸せでいっぱいだった。 ああ、温かい手のひらを自分の頬に当てる。 そして安堵する心音に顔をうずめる。 顔を上げ、柔らかい口元に近づく。 これがあれば春なんて…… ――突然だった。 先生が逮捕された。 ざわつく教室のウザい騒音も、落としたカバンとバラけた中身の音も、ガラス窓の向こう側のように遠のき、頭の中があなたの顔とともにドロドロに溶けていく。 乾いてく喉の奥から出た唯一の言葉は 「は?」だった。 先生は赦されないことをしていた。 私もその『一人』だった。 でも誰にもそのことを告げなかった。 ―― 卒業式、当然あなたの姿はない。 ……ねえ、こんなのいらないよ。 大好きだったよ。先生は? 大切な『生徒』からの質問に応えてよ。
2026/09/28 ・ 👁️ 73回 ・ 💬 0件

\ 次の作品を探す /

読者の感想・応援メッセージ

まだ感想はありません。

0 / 1000文字