エッセイ

エッセイという名のエッセイ

1,000文字 約2分で読了
作者:河内謙吾
 僕が宇宙を好きになった理由を誰かに尋ねられるたび、口をついて出る明確な答えはない。ただ、ずっと昔から、夜空を見上げるたびに胸の奥が静かにざわついた。  そのざわめきは不安ではなく、遠くの誰かに呼ばれているような、名のつかない感情だった。  子どもの頃は、星の名前も距離も知らなかった。けれど、目に映る光の向こうに測れない時間 が流れていることだけは、分かった。  人間の時間とは別の、もっと大きな流れ。僕はその流れに触れるたび、心のどこかがほどけていくようだった。  宇宙がただの憧れから、僕の人生の方向になったのは、ある夜、眠れずに眺めていたYouTubeだった。  偶然再生された動画は、宇宙の果てについて語る番組。聞き慣れない単語が次々と飛んできた。暗黒物質、マゼラン雲、宇宙背景放射。だが不思議なことに、それらは難解であるはずなのに、僕の心の側に座り込んで、静かに語りかける。  画面の向こうで、誰かが語っている。分からないものを、それでも分かろうとする姿勢を。  その誠実さに、僕は心を奪われた。  それからというもの、宇宙に関する記事を追いかけるようになった。ニュースアプリを開けば最新の観測結果を読み、解説動画を見れば未知の現象を知る。新しい知識が増えるたび、宇宙がわずかに近づく気がした。  星は変わらないが、それを見る僕が変わる。  その連続が、僕にとっての成長だった。  創作を始めたのも、宇宙があったからだ。物語を書くとき、世界設定に迷うと、必ず宇宙の資料に立ち返る。惑星の気圧、衛星の軌道、恒星の寿命。検索窓に入れた言葉は、僕の迷いを遠くへ連れ去ってくれる。  創作は孤独かもしれない。けれど、調べるという行為の先には必ず誰かがいる。天文学者、研究者、動画で熱く語る解説者たち。彼らの思考の断片に触れると、自分ひとりでは到底届かない場所へ、少しだけ踏み込める気がする。  僕は一人で物語を紡いではいない。そこには先人たちの努力、閃き、そして好きが幾重にも交錯して僕の背中を押してくれている。  今でも夜空を見上げる。星座の名は結局ほとんど覚えられなかった。それでも、あの日YouTubeを開く前より、宇宙はたしかに近い。  宇宙が僕に与えた影響とは、分からないものの前で立ち止まらずに、一歩踏み出す勇気だ。  それは星の光より頼りなく、ときには消えそうになる。  けれど、その小さな勇気が積み重なって、僕の世界はゆっくりと、確かに広がっていった。
2026/09/23 ・ 👁️ 111回 ・ 💬 0件

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