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人魚姫の告白
960文字
約2分で読了
「お母さんプロポーズってどんな風だったの?」
コーヒーを1杯飲み干すと、娘がそう尋ねてきた。
「どうしたの急に?」
「……ちょっとね」
私は本棚から古いアルバムを引っ張り出してきた。
ページをパラパラとめくり1枚の写真を指さした。
海辺の夕焼けの写真には私のシルエットが写っている。
古びた写真は色あせてピントがあっておらず逆光で影だけになっている。
「お父さんにプロポーズされた時の写真」
「…へえ、海でだったんだ」
「うん2人で結婚前に海に行ってね、貝殻を渡されたのよ。二枚貝を開くと中に指輪が入っていてね」
「えーロマンチック」
「ふふふ、実は昼間に旅館で食べたホタテ貝の貝殻だけどね。綺麗に洗って、そこに指輪を乗せて、跪いて渡してくれたの。『僕の人魚姫になってください』って言ってね」
「なんだかお父さんらしいね!」
「でしょ。泡になって消えるつもりはないけどね……」
記憶の夕焼けは美しくあまりにも鮮明だ。
だが人間の記憶というのは時と共に風化し色あせ、そのわずかな心象のみを残して消えていってしまう。
それを止めてくれるのは写真だが、ぼやけて色あせた写真はやはり記憶ともに薄らいでゆく。
私はマリッジリングに目を落とした。
エンゲージリングもマリッジリングもそこにはめた宝石は色あせることがない。
永遠に変わらず存在し続けるものなど無い。けれど一瞬を切り取ったその思い出は、永遠の中に存在し続ける。
泡のように消えてしまう存在と永遠に消えない想い。
焼き付けられた感情はフィルムよりも確かに私の心に焼き付いている。
「でも、急にどうしたの」
娘にそう尋ねるとちょっと困った顔をして、
「うん、はる君にプロポーズされちゃった」
と返事が帰ってきた。
「あらら…」
「でもお父さんみたいにロマンチックじゃないのよ。遊園地の帰りにハイと箱を渡されて返事はいつでもいいからだって」
「はる君らしいじゃない」
「はぁー」
と娘はオーバーにため息をついた。
「どうするかはもう決めてるんでしょ」
「うん、まあね」
携帯電話の着信音が鳴る。っっっっっlk
「あ、はる君だ」
そう言って娘は席を立った。
「頑張ってね…」
私は娘の背中を見ながらそう呟いた。
アルバムの中の思い出の写真は色褪せて、だがそこにはあの日の変わらぬ美しい時間が存在するのだ。
人魚姫は人間になって、幸せに永遠に暮らしましたとさ。
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