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秘密の手紙
1,499文字
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書斎の奥の本棚の向こうに隠し部屋があることに気がついたのは家をリフォームしようとした時だった。
大正時代に建てられた我が家は、県の文化財になっているために簡単にリフォームというわけにもいかないので申請して随分と時間がかかった。
本棚をどけて、奥に隠れていた扉を眺める。
引き戸になっているのだが後からつけたと思われる南京錠と錆びついた細い鎖とそれをつないでおく金具。正直に言ってドライバーで金具を外してしまいたいと思ったのだが、文化財である以上勝手なことをするわけにもいかない。結局鍵の専門家の業者に来ていただいて傷つけることなく南京錠を開いた。
隠し部屋と言っても大したものではない。3畳ほどの広さに本棚が一つポツンと置いてある。
隠し部屋という大層なものではなくて、ちょっとした物置だったのかもしれない。だが正直家の中から自分の知らない場所が出てきたことに戸惑いと驚きと何とも言えぬワクワク感が胸を支配していた。
子供が小さな宝物を見つけたみたいな感覚だ。
もっとも子供の宝物なんてちょっと変わった木の実とか綺麗な小石とか、ラムネ瓶の中のビー玉とかそんなものだ。
大したものは入っていないだろう。
そう思いつつそっと中に入ってゆく。
一緒に入ったのは私ばかりではない、妻や息子や母つまり家族全員ということだ。
本棚には数冊の本が並んでいた。
家族とともにその本をリビングに持って行く。
一体何が書いてあるのだろう?
私はそっとページを開いた。
万年筆で書かれたものだろうか、古びていたがインクの匂いがする。黄ばんでボロボロの本の紙はそれでも インクで書かれた文字をはっきりと残していてくれた。
内容は日記らしかった。
最もその内容はといえば、おそらくこれは愚痴なのだろう。
最近の流行歌の『ラッパと娘』が好きだが蓄音機でそれを聞いていたら父に怒られてしまった。素晴らしい曲なのに父は理解ができないからといって何もかもを否定してしまう。本当に頭が固い。金槌みたいに釘が打てるんじゃないのか。
なんてことが書いてある。
私は少し可笑しかった。
これを書いたのは私の祖父だろうか。
そういえば私も十代の頃CDを買って聞いていたら、その曲を気に入らなくて父親が文句を言っていたっけ。
案外私は祖父に似てるのかもしれない。
口元にほんのりと笑みが浮かぶ。
これが書かれたのがいつ頃なのかわからないけれど、きっと私と 変わらぬ十代の頃を過ごし同じように大人になっていったに違いない。
日記とともに手紙の束も出てきた。
どうやらこれは女性からの恋文らしかった。
綺麗な毛筆で書かれている。
私は便箋から手紙を出して開いてそのことに気がついた。
そっと丁寧にたたんでまた便箋の中に直す。
……この手紙は読んではいけない。
おそらくこれは祖母のものなのだろう。
そこに書かれている恋心に触れてはいけない。
誰にだって見られたくない 大切な思いはあるものだ。
私はそれを読んではいけないと思った。
きっと麗しき乙女だった頃の祖母が祖父に宛てたものなのだろう。
私たち家族はしばらくの間リビングで日記や手紙の話そしてそれ以外に出てきた本の話をしていた。それらのものをどういう風に保存するかと出てきた部屋をどうするか。
やはりここも綺麗に掃除してその後リフォームをお願いして、クローゼット代わりに使うのが一番いいだろうという結論になった。
日記や手紙や本はまた大切に保存しておこう。
家族と話し合いそういう様な話になった。
だが私は手紙の束を持って仏壇へと向かった。
そっと手紙を供えると、線香をつける。
ゆっくりと立ち上る線香の煙とともに手紙とそこに込められた想いが祖父のもとに届きますようにと祈りを込めて。
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