SF・ファンタジー
人生再始動センター
1,728文字
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「吾輩は猫である」
...なんて誰にも届かない戯言を言ってみる。
私は猫。
ただの猫。
ここ、2106年"人生再始動センター"で他人の人生を盗み聞いているただの猫。
おや、そんなこんなで誰か来たようだ。
「頼む! やり直させてくれ!」
駆け込んで来たのは中年の男性。
どうやら慌てている様だ。
一人目:月は沈み、日は昇る
「どうしました?」
受け答える青年。
私がここに来た頃以前から勤めているだけの、ただの青年だ。
中年の男性は言う。
「人を轢いてしまったんだ! 早くやり直させてくれ!」
どうやら交通事故を起こして人を殺してしまったらしい。
そんな中年男性に、青年は淡々と言う。
「分かりました。生年月日とお名前を教えてください。」
その言葉に、中年男性は落ち着きを取り戻しながら応える。
「1984年1月20日生まれの42歳、葉崎之和(はざきゆきお)です。」
「では、葉崎さん。貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」
「は、はい。日時は今日の午前11時、状況は私がトラックを運転しているとボールを取りに飛び出した少年とその子を庇った女性を轢いてしまった時です。」
「成程。では奥に進んで頂く前に最後の確認です。」
「な、なんです?」
戸惑いながらも聞く中年男性に青年はこう言う。
「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」
「えぇ。構いません!」
その言葉に、青年はニコリと微笑み中年男性を奥へと案内する。
二人目:誕生日
「やり直させてくれ!」
次の人はサラリーマンの様な風貌の男性だ。
「何としてでもやり直したいんだ!」
かなりテンションが高いサラリーマンだ。
慌てた様子で言っている。
「落ち着いて下さい。先ずは生年月日とお名前を教えてください。」
「す、すいません...僕は1990年3月18日生まれの35歳です。名前は下森信幸(げもりのぶゆき)です。」
「分かりました。下森さん。では貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」
「戻りたいのは2105年の7月12日です。状況は息子の誕生日前日です。」
「分かりました。それでは奥に進んで頂く前に最後の確認です。」
「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」
「はい! 勿論です!」
そう言い、サラリーマンは奥に進む。
三人目:ダ・カーポ
「やり直させて下さい。」
次に来たのは化粧が厚い女性だ。
そして、内に秘める怒りを隠しきれていない。
「はい。先ずは生年月日とお名前を教えてください。」
「ワタシは1996年8月9日生まれの29歳です。五十嵐咲実(いがらしさくみ)です。」
「分かりました。では貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」
「戻りたいのは五年前の12月4日です。状況は外で立っているワタシを彼が声を掛けてきた所からです。」
「はい。では、奥に進んで頂く前に最後の確認です。」
「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」
「えぇ、勿論。二度とあんな男にひっかからないわ!」
そう言い、厚化粧の女は奥へ進む。
四人目:三態
「頼むぅ、戻してくれぇぇ!」
最後に来たのは髪の無い、皺の多い老人だ。
「分かりました。先ずは生年月日とお名前を教えてください。」
「わしは1930年の5月29日生まれ95歳の丙宗吾(あきしゅうご)です。」
「了解しました。では、貴方の戻りたい日時とその状況を教えてください。」
「わしを生まれた頃へ戻してくれぇ。」
「承知しました。では、奥に進んで頂く前に最後の確認です。」
「この先に進んだ場合、その時点での記憶までしか引き継げません。それでも宜しいですか?」
「早く戻してくれぇ!」
半狂乱ながらも老人は奥へ進んで行った。
n人目:頁
「くわぁぁ...」
滑稽過ぎて欠伸が出てしまう。
最初の中年男性はいっつもここに来ては繰り返している。ずっと妻子を助けようとして。
サラリーマンは息子を殺しに過去へと戻る。
化粧が厚い女は何度繰り返しても同じ人と付き合うし、しわしわの老人は若々しさを求めて繰り返す。
愚かだね。
過去に戻っても未来なんて変わらないのに。
果たして次はどなたが来るのだろうか。
さて、私もそろそろ行こうと思う。
人生の繰り返しに。
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