SF・ファンタジー
グリーンの靴は、世界のはじまり
1,068文字
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とあるホテルの裏路地に、みすぼらしい少女が住んでいた。彼女はホテルの従業員が建物の裏から捨てる残飯や使えなくなった品々を漁り、生活の基盤を整えている。たまに衣類やタオルがあるとラッキーだ。少女は、路地裏でネズミと一緒に這い回る生活に慣れきっていた。
そんな日々を送りながら、ふと路地裏をちょっと出て小銭稼ぎに行こうとした時だ。路地裏の入り口を出てすぐ、ポロシャツのちょび髭男と出会った。小綺麗な身なりと、微かな香水の匂い、それから腕に巻かれたピカピカ輝く金の腕時計を見て、少女は「彼はホテルの客だ」と気づいた。
ちょび髭男は、少女をまじまじと見つめ、数秒後に口を開く。
「紙とペンだ」
「はい?」
「紙とペンを持ちなさい。それからファイルもあった方がいいな。君はもっと別の時間潰しをすべきだ」
言いながら、ちょび髭男は足元を見た。少女もまた足元を見ると、目線の先には、ちょび髭男の履く美しいグリーンのサンダルと、少女の履くみすぼらしいスニーカーがある。貧富の差が一目瞭然だなと少女が思って足を見つめていれば、突然ちょび髭男が自らの履くサンダルを脱ぎ始めた。
「これをあげよう」
「へ、いや、貰えませんよ。こんな綺麗な靴は」
「いいから」
彼は何処からともなく取り出した紙袋に脱いだサンダルを入れると、少女へ押し付けた。少女が当惑していれば、やがてホテルの入口付近から大きな声が聞こえる。
少女が顔を向ければ、淡いレモンイエローのポロシャツを着た青年がこちらに向かって何かを叫んでいた。仲間か何かだろうか。
少女がぎょっとしている間に、ちょび髭男が歩き出してしまう。靴はどうするのだと少女が足元を見やると、不思議な事に、彼はいつの間にか眩しいグリーンの革靴を履いていた。
手品でも見せられたのか。そう呆然としている少女を置いて、ちょび髭男は去って行った。少女の手元には、グリーンの美しいサンダルだけが残る。
その夜、少女は夢を見た。あのホテルから、まるでおとぎ話に出てきそうな世にも美しいサファイアブルーの大きな馬車へ乗り空へ帰っていく人達の事を。彼らは皆、カラフルなキャンディに似た見た事のない衣装へ身を包んでいた。
もしやあのちょび髭男もいるのかと目を凝らせば凝らすほど、少女はその人々の鮮やかさに魅入られ、見惚れ、いつしか夢から覚めていた。
そうしてあくる日、少女は自分の足にピッタリの綺麗なサンダルを履いて外へ出た。しかし、その足はいつもの習慣となったゴミ漁りへは行かない。紙とペンを買いに、彼女は世界を歩き出したのだ。
夢に見た、あの美しい時間を書き起こす為に。
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