SF・ファンタジー

寝る

2,983文字 約6分で読了
作者:毎日休日
 2xxx年世界は人口に溢れていた。政府はこの爆発的な人口増加にストップをかけるため日々首脳会談を繰り返していた。  そんな中、一人の少年が奇妙な病気に悩まされていた。彼の名はカスミ。小学4年生になる。数日前からいくら目を瞑っても眠ることができなかった。医者は不眠症だと診断したが、その症状はただの不眠症ではなかった。起きた時間とまったく同じだけ、睡眠時間がやってくるのだ。その上、睡眠中は年をとらない。そして、その症状以外は健康な体そのものだった。熱が出ることもないし、頭が痛くなることもない。ただ、睡眠時間と起きている時間が、きっかり同じ時間だけ交互に繰り返されるのだった。  その症状は徐々に悪化していった。三日、一週間、半月、一ヶ月…睡眠時間と起きている時間がどんどん長くなっていく。そうなると、学校の勉強はおろか、人付き合いもままならなくなった。  世間はカスミの症状を、新種の動物でも発見したかのように取り立てた。なにしろ今は人口爆発で世界は大変なことになっている。万が一、カスミのような人間が増えると世界が混乱することになる。  新聞やラジオ、テレビまで彼を取材した。医者もカスミを見に来たし、何処の機関かわからない白衣の研究者たちもぞろぞろと彼を見に来た。しかし、病気の原因は何一つわからなかった。 幾年も経ち…。    カスミは久しぶりに目を覚ました。学校に行ったが、カスミの同級生はもう思春期になっていた。法律上、カスミの年齢は十四歳。授業の内容はもちろん、中学三年生の授業内容になっていた。当然、カスミは勉強についていけなかった。何より同級生が大人に見えた。  カスミは小学生のまま成長していなかった。なにしろ病気で歳をとらないのだ。話の内容も高校受験の話がほとんどだった。話についていけないカスミは、一人自席に着席して時間を過ごした。家に帰ったこの日から、カスミは部屋に引きこもるようになった。カスミは時間からはみ出した異星人になった気がして悲しくなった。一年後、カスミはようやく次の睡眠を迎えた。    高校生の年齢になったカスミだが、カスミは高校に通えなかった。なにしろ受験もしていないのだ。高校に入れるはずがない。学力も小学生のままだった。  何度かの睡眠と起床を繰り返したカスミは、ようやく成人を迎えた。しかし、その頃の世界は自分が知っている世界とは乖離した世界だった。車は空を飛んでいるし、食事も時間になればどこからともなく飛んでくる。一番びっくりしたことは、宅急便がなくなったことだった。荷物は全てステーションというところに預けられる。日時と場所を機械に入力すれば、あとは自動で荷物を瞬間移動させることができた。  子供達の遊びも自分の知っている遊びではなかった。テレビゲームはもう存在しなくなり、コンタクトレンズを装着することによって、ゲームの世界に入り込むことができるようになっていた。カスミの目にはその姿は異様な姿に映った。なにしろ椅子に座ったまま、子供達は微動だにしないのだ。コンタクトレンズをはめた子供達の姿は、精神病者のようだった。カスミは次の睡眠が恐ろしくなった。次はどんな世界に自分がいるのかわからなかったからだ。    次の目覚めの時は信じられないニュースを見た。あまりの人口爆発のために、殺人遊園地ができたということだった。人間には人を殺したいという欲求が誰しも少なからずあるという。その欲求を使い、人口を減らそうというのだ。その遊園地内は治外法権となっており、いくら人を殺してもいいということだった。そんな危ないところに誰が行くのか?とカスミは思ったが、意外にもその遊園地は開園から客の足が途絶えることはなかった。これだけ人口が爆発すれば、人は人を人と思わなくなるのかもしれない。もちろんカスミがこの遊園地に足を踏み入れることはなかったが、少しの興味はあった。カスミはこのままだと人類はいつか消えて無くなるのかもしれないと思った。そう思うと強烈な畏怖がカスミを襲った。    次に目を覚ました時には、人々が宇宙へ移住することができるようになっていた。地球の近くにコロニーと呼ばれる人口の星が完成していた。これによって人類は爆発的人口増加の問題を解決する糸口を掴んだみたいだった。ただ、あの殺人遊園地はなくなっていなかった。知恵の付いた猿は、その脳をどんどん大きくさせ、今や神に手が届きそうだった。この頃になると、カスミの起床時間は数十年間になっていた。同時に睡眠時間も数十年間となっていた。人口爆発の問題を解決する糸口を掴んだとしても、次は人類が滅んでいるかもしれない。カスミはそう思わずにはいられなかった。    カスミの予想は外れた。目を覚ましたカスミだったが、人類はまだ存在していた。しかし、地球の周りにあるコロニーの数ももう限界に達していた。同時に人間の数も限界と言えた。人々は違う惑星への移住を考え始めていた。しかし、いくら科学技術が発達した人類といえど、地球と同じような星を持った惑星を見つけることはできていないようだった。そうなると愚かな人間たちは、自分が住む場所を確保するために争いを始めた。その争いは徐々に激しくなり、一昔前に流行った戦争というものになった。殺人遊園地もその頃には廃園になった。戦争で人を殺せるから、わざわざ金を払ってまで来園する人がいなくなったのだ。カスミは逃げ回りながら次の睡眠を待った。世界中混乱していた。次の起床の時にはいよいよ人類がないかもしれない。カスミはそう思った。  次の目覚めは宇宙船の中だった。カスミは眠っていたカプセルから飛び出した。カプセルの近くには手紙が置いてあった。  「あなたたち二人は地球人最後の二人です。地球は戦争によって木っ端微塵になりました。私たちは寝寝病になったあなたたちに最後の希望を託します。カスミさんとユメさんお二人は、地球上にたった二人しかいない寝寝病の患者です。偶然にも性別が男と女でした。宇宙船は自動運転になっており、地球型の星を見つけた時に自動で着陸もしてくれます。もちろん食事も自動で出てきます。あなたたちの使命は、地球型の星が見つかるまでに子孫をできるだけ残し、地球人の血を絶やさないようにすることです。健闘を祈ります。」  カスミはこの病気が寝寝病と命名されていたことを初めて知った。そして自分以外にもう一人の患者がいたことにびっくりした。しかもそれが女性だったとは…。  これはまさに使命だとカスミは思った。愚かな人間達が招いた戦争に対して、神が与えた試練なのだとカスミは考えた。かくしてアダムとイブになったカスミとユメは、同じ宇宙船で旅をすることになった。  カスミが寝ていたカプセルの隣に、もう一つのカプセルが置いてあった。そのカプセルには確かにユメと名前が書いてあった。カスミは恐る恐るそのカプセルの中をのぞいてみた。ユメは大変美しい顔をしていた。女性経験のなかったカスミは、心の底からこの女性と子作りができることを喜んだ。  そして、カスミはカプセルの横でユメが夢から目覚めるのをじっと待ち続けた。  次の睡眠が来て、次の起床時間が来た時もカスミはユメが目覚めるのを待ち続けた。  しかし、カスミとユメの二人はとうとう子供を作ることができなかった。  二人は寿命が来るまで丁度交互に睡眠し、目覚め続けたのだった。
2026/09/17 ・ 👁️ 77回 ・ 💬 0件

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