コメディ・日常

不安症の男

1,833文字 約4分で読了
作者:毎日休日
 とある居酒屋で二人の男が談笑していた。彼らは幼い頃からの親友だった。悩み事があれば、どちらかがどちらかを誘い、相談しあう。とは言え、相談を持ってくるのは大概Bの方だった。彼はどんな些細なことでも心配してしまう癖があった。  ある日、二人は居酒屋で安酒を飲んでいた。気持ち良くなったところで、今日の場を作ったBがAに悩みを打ち明け始めた。  「最近、俺の周りで不吉なことが起こってさ、正月に履いた下駄の鼻緒は切れるし、毎日黒猫が家の前を横切る。この間なんか触ってもいないコップが割れたんだぞ…。うん、まぁ多分触ってない。」  人間誰しも話しを大きく見せたいものだ。Bは明らかに話を大きくし、その不安をAに話した。AはBの話をニヤニヤしながら聞いていた。  「まぁ、とにかく、気味が悪くなってさ。この間、町で有名な占い師っていうばあさんに占ってもらったんだ。そしたらなんとよ、俺の家の一部に鬼門が出来てるっていうんだ。鬼門ってわかるか?不吉なエネルギーが集まる場所なんだって。それが俺の家にあるんだよ。俺、もう不安になってよ。どうすればその鬼門がなくなるか聞いてみたんだよ。そしたら、鬼門の道筋になっている通路を塞げっていうんだ。でさ、その廊下を潰して倉庫にでもしてしまってよ、代わりに渡り廊下を家の外に作ろうと思うんだ。貯金はそんなにないけど不安のまま生活するよりはいいと思うんだけど。どう思う?」  超常現象を間に受けるとはBも面白い奴だ。ナッツを口に放り投げ、Aはアドバイスを始めた。  「お前がした話と全く同じような話を聞いたことがある。ウィンチェスター・ミステリー・ハウスって知ってるか?アメリカで実際にある幽霊屋敷なんだがな、サラ・ウィンチェスターって言う女が幽霊を見たとか言って、一生涯かけて家を増築し続けたんだ。もちろん大金をかけてな。今じゃ観光スポットになってるみたいだけど、その話にそっくりだよ。」  「俺もその話は聞いたことがあるけど、俺はそこまでする予定はないよ。とりあえず今ある鬼門を潰すだけだよ。」 と、B。  「まぁ聞けよ。俺が言いたいのはその話じゃなくて、日本でも同じような家があるっていうことだよ。」  Bは驚きのあまり目を丸くした。  「おい、日本でもって本当か?」  Aは黙ってコクリと一度うなづいた。Aのその目は、これから真実を語る真剣な目だった。そんな事実がこの日本であるのなら、Bにとっては知っておきたい情報だ。Bは身を乗り出してAを一直線に見つめた。  「ああ、本当の話だ。そいつはお前と同じように不吉な現象が続いたから家を改築し始めたらしい。だけどそいつは普通のサラリーマンだったからすぐに資金が尽きたそうだ。でも資金が尽きても不安が尽きることはない。そこでそいつは友人に勧められた神社でお守りを買うことにしたんだ。するとすぐに不吉な現象が消えたんだと。」  「ほ、本当か?その神社はどこにあるんだ?」  Bは思わず声が上ずった。何しろ今持っている最大の悩みが一つ消えそうなのだ。Bの心臓は高鳴りした。  「ほら、お前の家の近くにちょっと有名な神社があるだろ?そこだよ。以外と知られていないが、あの神社はすごい力を持ってるそうだ。」  Aはそう言ってビールを飲み干した。  近所の神社でお守りを買うだけでいい。Bの目が今度は点になった。あまりにも簡単な解決方法だったからだ。  「本当にその神社でいいのか?俺は聞いたこともないぞ。」  「それはお前が知らなかっただけだよ。実際にそいつはそれで全て解決したっていうんだから、一度その神社のお守りを買ってみろよ。改築やら増築するよりはるかに安くつくぞ。」  確かにそれが事実なら、増改築する何千分の一の金で悩みが消え去る。Bは一度Aの言うことを信用してみることにした。  「わかった一度その神社に行ってみる。いや、よかったよ。やっぱりAに一度相談すべきだな。」  満足したBは清々しい顔で、次のビールを注文した。  さて、Aの話はもちろん全て嘘である。家を増改築する友人はいたが、それはジオラマを趣味にした友人をモデルにした全くの作り話だった。Aは友人としてBの相談に乗っただけだ。そしてBが無駄遣いをしないように誘導した。  その頃、六畳程の部屋でBからの電話を待ち続ける女がいた。あの占い師だった。この女、上辺は占い師だが、正体は詐欺師だった。女はとある建築会社とタッグを組み多くの人間を騙くらかしてきた。  この女が捕まるのは、BがAに相談した日からそう遠くない未来の話。
2026/09/15 ・ 👁️ 95回 ・ 💬 0件

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